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乃蒼と一緒に交番に靴を届けると、仁汰を心配していた若い警察官から咲那は拾った場所や時間を事細かに聞かれた。その間、ベテランの警察官の木下さんは交番の隅で暇そうにスマホをいじっていた。ゲームをしているらしく、たまに「よっしゃっ! きたきたっ!」と、はしゃぐ声が聞こえる。
若い警察官は咲那の視線に気づき、ベテランの警察官を一瞥する。
「ごめんね」
こっそり謝罪した彼の顔には嫌悪が滲んでいた。彼が「死ねよ」と聞き取れないくらい小さな声で言ったことを、咲那は胸にしまっておくことにした。
若い警察官に見送られ、咲那と乃蒼は交番を後にする。
「仁汰くんすぐに見つかるよ」
帰り道、咲那が歩く足音に背後を歩く乃蒼の足音が重なる。
「なんでわかんの?」
咲那は涙を見られた気まずさから、乃蒼に冷たく答えた。
「怒ってる?」
「怒ってないよ」
不安そうな彼女の声が二年前のアスカの声と重なって聞こえた。
「本当に怒ってないから。最近ちょっと寝れなくて、疲れてるだけ」
咲那は歩く速度を落とし、乃蒼と並んで歩く。
連日の悪夢や最近ひどくなった母親の幻覚のこともあって、最近少し情緒不安定ぎみだ。それに、近々祭りがある。アスカのことを思い出したことで、いつにもまして感情を制御できなくなっている。
咲那は乱れた気持ちを落ち着かせるため、心の中で「こぶた、たぬき、きつね、ねこ」と繰り返し唱えた。
「大丈夫?」
うつむいた咲那の顔を乃蒼は覗き込んだ。
「ありがと、大丈夫だよ」
大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせるように答えると、ちょうど自宅の前に着いた。咲那は乃蒼を見送り、けだるい体を轢きづって玄関ドアを開けた。
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