30人が本棚に入れています
本棚に追加
もう一度呼びかけた時、祠の中から泣き声が聞こえてきた。アスカの声ではない。生まれたばかりの赤ん坊の泣き声だ。
泣き声は徐々に大きくなり、沼地に響き渡る。
アスカの肩越しに見えた祠の戸は、さっき見た時と同じように片方だけ開いている。祠の下を見ると、蛇が張ったような水の跡があった。よく見ると、祠から泥水が流れ出ているようだ。
「アスカ!」
もう一度、咲那は彼女の名前を呼んだ。
赤ん坊の泣き声が咲那の声をかき消す。祠から流れ出る泥水は次第に勢いを増し、濁流に変わった。
赤黒い泥水に巻き込まれ、アスカの姿が見えなくなる。そのまま沼地に流れ込んだ汚泥があふれ出し、咲那の足元が沈んでいく。汚泥に足を取られた咲那は、赤黒い泥水に飲み込まれていった。
最初のコメントを投稿しよう!