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 高梨さんは玄関に戻ろうとしていた足を止め、仁汰の走り去った方へ視線を向けた。 「だから心配ないって言ったじゃろ? この島はそうなっとるんよ。昨日の夜に、うちの向かい側の海岸でなにか大きな音がしたんじゃけどね。すぐに見に行ったら、あの子が海岸近くでうずくまっとったんよ。着とったパーカーが焼けこげとってね、驚いてあの子を起こしたら、寝ぼけてただいまなんて言うんじゃけん」 「パーカーが焦げてたんですか?」 「そうなんよ。それに服からなにやら海で泳いできたみたいに全身ずぶぬれよ。でも、あの子は怪我ひとつないし、なんにも覚えとらんって言うんよ。不思議じゃろ?」  そう言って高梨さんは笑った。笑い事ではないと思うが、気にした様子もなく彼女は家に戻って行った。  残ったのは玄関に座る仁汰の父親だけだ。空をぼんやり見つめる姿は、今朝見た父親の圭吾に少し似ていた。  咲那は横断歩道を渡り、仁汰が見つかったという海岸沿いの防波堤に向かった。防波堤には、なにか焦げついたような茶色い跡がある。よく見ると、焦げ跡は二つあった。小さめのトランクケースくらいの跡と、大きなトランクケースくらいの跡が並んでいる。大小きれいに並んだ焦げ跡は、まるで親子のようだ。海を覗き込むと、数匹の魚の死体が浮かんでいた。 「咲那、そろそろ行かないと遅刻するよ」 「でも、さっきの話聞いたでしょ? 焼けこげたパーカーを着てずぶ濡れで見つかるなんて、不自然すぎるよ」 「そういうのは警察に頼むべきでしょ。それに、仁汰君は元気だったしさ」 「いつもはネット配信のネタにできるって言うくせに」 「他人のプライベートなことは配信できんでしょ? 私って常識人だからさ」  いいから遅れるよ、と乃蒼に腕を引かれた咲那は釈然としないまま横断歩道を渡る。
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