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【三日目】-1
咲那の住む女真島は、人口五百人くらいの田舎町程度の規模の離島だ。子どもと大人の比率はだいたい半々だが、大学がないこともあって十八から二十代前半までの人間はほとんどいない。繁華街がなくても島の施設は充実しているため、暮らしていて不自由なことはあまりなかった。
高校の裏手の山を越えた先にある病院は、都会の総合病院にも引けを取らない規模の大きさだ。この病院があるおかげで、島から出なくても医療を受けられる。なんでも、女真島出身の支援者が出資して建てたらしい。
「ありがとうございます」
咲那は病院の受付で、アスカのお見舞いをする許可をもらっていた。看護師の男性に頭を下げ、彼女のいる病棟に向かう。
病院は島の規模に反して広すぎるせいで、どこも閑散としていた。いつでも待ち時間なく診療を受けられるのはいいが、子どもながらにつぶれないのか心配になる。
ソファに座って世間話に花を咲かせる老婆たちを横目に、咲那は病院の廊下を歩いていく。
「こぶた、たぬき、きつね、ねこ」
病室が近づいてくると緊張してきた。おまじないを唱えると少しだけ心が落ち着く。
アスカのことを聞いて、昨日は眠れなかった。朝、久しぶりにアスカの家に立ち寄ると彼女の母親が咲那を迎えてくれた。アスカも咲那と同じ母子家庭だ。彼女もアスカの帰りを信じ、ずっと待ち続けていた一人だった。アスカの母親と抱き合って喜んだ咲那は、泣き叫びたい気持ちをおさえて目がしらに滲んだ涙を拭いたのだ。
彼女の了承を得て、咲那は学校終わって一目散に病院に駆け付けたが心の準備はまだできていない。
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