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アスカが帰ってきたと聞いても、まだ実感がなかった。病室のネームプレートには、確かに竹田アスカと書いてある。
このドアの向こうに彼女がいるのだ。
「……こんにちは」
意を決して病室に入ると、ベッドで横になる少女が咲那の方を向いた。
そばにいた彼女の母親が、気を遣ってくれたのか病室を出て行く。
「どしたん? はよ入りんさいや」
横になっていた体を起こし、少女は咲那を手招く。
「本当にアスカなの?」
昔よりも大人びた顔のアスカを前に、咲那は足が動かなかった。自分と一緒に彼女も年を取っていた。そのことが嬉しくて唇が震える。
今までどうしていたのか、怪我はないのか、体調は――、考えが頭の中に浮かんでは消えていく。
なにから聞けばいいのか、聞いていいのか。考えるほどに分からなくなる。
「髪、ショートヘアのままなんだね」
さんざん考えあぐねた結果、咲那は昔から変わらない彼女の髪に目をとめた。
少し赤茶けた髪は中学生のころと同じショートヘアだ。彼女は今まで、髪を自由に整えられる場所にいたのだろうか。
「うん、そうじゃね」
毛先をいじりながら、アスカは肩をすくめて眉を下げた。あまり聞いてはいけないことだっただのかもしれない。
「ごめん、変なこと聞いたね。なんか、実感がわかなくて。頭の中のアスカのイメージが昔のままだったから」
大人びた顔つきをしているが、白い肌もふっくらした頬も昔と変わらない。同じだけ年を重ねても、面影からはっきりアスカだと分かる。
「変わらん人なんておらんじゃろ。みんな毎日少しずつ変わっていっとる」
アスカは目を細めて笑う。大人っぽい表情に、咲那は時間の経過を感じた。
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