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 女真島に来る前、咲那には父親の圭吾との思い出がほとんどない。あまり父親が家に寄り付かなかったこともあって、昔から母親との二人暮らしのようなものだった。圭吾がいなくなり、母親の裕子は昔以上に娘の咲那を大切に育ててくれた。  なに不自由することなく育ててくれた母親を大切にしたい。それとは別に、妄想の父親を作り上げた母を心の底では拒絶していた。都合の良い考えに、咲那は自己嫌悪で吐き気がした。 「咲那ちゃん! ちょっと待ちんさい」  帰り道、ひどい嫌悪感を抱えて海岸通りを歩いていると、近所に住んでいる西本のおばあさんに呼び止められた。  民家の窓から手を振り、すぐに彼女は通りにできた。腰を曲げて近づいてくる彼女は、パンパンになにかが詰まった布袋を両手に下げている。 「これ持って帰りんさい。うちで作ったお野菜。きゅうりとズッキーニと、あとはナス。全部形がちょっとアレじゃけど、よかったら貰ってって」 「ありがとうございます。お野菜いつもお母さんが喜んでるんですよ。私も大好き」  咲那は西本のおばあさんから野菜を受け取る。袋に詰め込まれた野菜のずっしりとした重みが腕にかかる。  島に引っ越してきてから、西本家にはなにかと面倒を見てもらっていた。お米や野菜、たまに山でおじいさんがとってきたイノシシの肉まで届けてくれる。  おかげで母子家庭の浅保家は今まで食べるものに困ったことがない。
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