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【一日目】-1
息が苦しい。体中が重たいような、なにかに掴まれているような不思議な感覚だ。
目を覚ますと、視界には見慣れた天井が広がっていた。
「しんど」
咲那は一人、自分の部屋のベッドで呟いた。やわらかな掛け布団に体をうずめた後、居心地の良いベッドから這い出た。
最近は暖かくなってきたが、悪夢のせいで布団から出るのがけだるい。
カーテンの隙間から洩れた朝日が、部屋を横切り光の柱を作っている。咲那はいつものように、ハンガーにかけておいた高校の制服に着替えた。
臙脂色のネクタイを結んで紺色のブレザーを羽織り、長い髪をポニーテールにする。
時刻はいつもと同じ六時四十分だ。支度が出来たらカーテンを開く。まぶしい光に目を細めて窓の下を見ると、近所のおばさんが手を振っている。
咲那は近所の人たちに手を振り返し、島の向こう岸に見える本島の線路に目を向けた。線路を走る黄色い電車を見送り、リビングのある一階に下りる。
いつも通りの朝だ。
悪夢を見た日でも、同じ行動をとるとなんとなく安心感がある。リビングのドアを開けると、キッチンにいた母親の裕子に「おはよう」と声をかけた。
「おはよう。あんた、ひどい顔になっとるよ」
「もともとだし」
母親にこすられた頬に手を当て、咲那はリビングのテーブルについた。裕子は「口だけは達者じゃね」と、呆れた声で言いながらダイニングテーブルに朝食を並べていく。
「かわいい私の咲那ちゃん、朝食ですわよ」
ふざけた母親とのやり取りも、いつも通りだ。咲那は母親が向かいの席に座ったのを確認して箸を持ち、「いただきます」と手を合わせた。
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