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西本のおばあさんには少しデリカシーがないところがある。あけすけなことを言う人だが、そこさえ目をつぶれば親切でとてもいい人だ。
「ほんで、あの人となに話しとったん?」
西本のおばあさんの声が少し低くなる。
「あの人って?」
「民宿に泊まっとる女の人よね。ほら、泥棒みたいな黒いジャケットを着た、つり目の」
沼で釣りをしていた旅行客の女性のことを言っているのだろうか。
あの場所には、彼女と咲那しかいなかったはずだ。どこかから見られていたらしい。悪いこともしていないのに、咲那の額に冷や汗がにじむ。
「とくに話はしてないですよ」
「あんまり知らん人と話しんさんな。いろいろあったばかりじゃろ」
色々とは、どの件を言っているのだろうか。頭に浮かんだのは、仁汰やアスカの顔だ。
彼女は恐らく、子どもたちのことを心配しているのだろう。
「そういえば、お父さんが帰ってきなさってよかったねぇ。祭りも近いけぇね、きっと母沙那様のおかげじゃわ」
西本さんに母が話したのだろうか。父の話を出され、咲那はあいまいに笑いを返す。
「お野菜、ありがとうございます」
優しい島の人たちは好きだが、あまり詮索されたくはない。咲那は野菜の詰まった袋を高く持ち上げ、西本のおばあさんと別れた。
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