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島では不可解なことがたまに起こるが、悪いことではない。
仁汰もアスカも、父親の圭吾も帰ってきた。彼らは元気で、怪我ひとつしていない。アスカへの後ろ暗さはあるが、それは自分の問題だと咲那は顔をのぞかせた感情を飲み込んだ。
すべてが上手くいっている。
「ただいま!」
精一杯の笑顔でリビングに入り、咲那は母親に野菜の詰まった袋を渡した。
「西本のおばあちゃんから、お野菜もらってきたよ」
「ありがとう。重かったじゃろ?」
裕子は袋を受け取り、すぐにキッチンに持って行った。ダイニングテーブルに着いた圭吾が、裕子の後姿をぼんやり眺めている。
「お父さん大丈夫そう?」
キッチンで野菜を取り出していた裕子の耳元で、咲那はこっそり訊いた。
「大丈夫って?」
本当に分かっていないのか、話したくないのか、裕子はとぼけたように答えた。
「アスカちゃん、帰ってきてよかったね」
「うん、元気そうで少しだけ安心した」
結局圭吾のことを話すことなく、裕子は咲那の頭を撫でた。
「頑張ったね」
「なにもしてないよ、私は」
なにもしていないどころか、彼女がいなくなったのは自分のせいに他ならない。咲那は母親から視線を逸らす。
圭吾は相変わらず、ぼんやり呆けた顔だ。仁汰の父親も圭吾と同じように、感情のない目をしていた。
失踪してから、彼らがどうしていたのか。島の人たちは、誰も詮索しようとしなかった。それがこの島のルールなのかもしれない。
「アスカもね、今までどこにいたのか話さなかったんだ。きっと、話したくないんだよね。だからさ、本人が話したくなるまであまり深く聞かないようにしようと思ってる」
咲那はテーブルにいる父親の隣の席に腰掛けた。
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