【一日目】-1

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 また、彼女は因縁をつけられているらしい。島の新入りである乃蒼は、こうして毎朝のように彼に絡まれている。咲那は懐かしい気持ちと呆れた気持ちをかみ殺し、乃蒼と彼の間に立ちふさがる。 「おはよーございまーす。君たちの親御さんや学校に今から電話させていただくけど、よろしいでしょうか?」 「邪魔すんなや。お前に関係ないじゃろうが。アスカがおらんようになったからって、こいつとつるんどるんか」  彼は一つ年下の中学三年生だ。気合の入ったオールバックの髪型は、ラーメン屋の片隅に置いてある漫画の登場人物みたいだ。唯一違うのは彼がいるのは田舎の小さな島で、喧嘩を売っているのが小柄な女子高生と言うことだった。  こうして島では、よそ者は格好の餌食にされる。いわゆる、可愛がりというやつだ。咲那も島に来た当初は同じように、年下だろうが年上だろうがターゲットにされた。 「島民同士が喧嘩してるって知ったら、あんたの母親は怒り心頭であんたを引きずり回すだろうね。前みたいに。あほじゃないなら、同じ過ちを繰り返すのはやめておいたら?」  この島の大人はよそ者に厳しいところはあるが、いじめや喧嘩は許さない。少し前にも、同じように乃蒼をいじめた彼は、母親にみっちりお説教されている。  大人に叱られようと、こうして懲りないやつはいるが、それも中学生までの子どもだけだ。 「よそ者いじめもたいがいにしろや」  彼の母親の電話番号は、すでに咲那のスマホに登録済みだった。  スマホの画面に出した電話番号を見せると、彼は苦々しそうな顔をしながら去って行った。
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