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「ありがとう、咲那。助かったわ」
乃蒼は咲那の腕に抱き着き、大げさに安どのため息をついた。
「あんな奴ら、ぶん殴ってやれば?」
「小学生じゃないんだから、大人の余裕ってやつですわ」
腰に手を当てて胸を張る姿は、どう見ても大人には見えない。乃蒼は小柄でか弱く見えるが、意外と肝が据わっている。それが分からない年下の子どもたちには、今日みたいに喧嘩を売られることも少なくない。
島の子どもは優秀だが、よそ者を見ると嫌がらせや無視をすることもよくある。
乃蒼ほどではなかったが、引っ越してきたばかりのころは、咲那も島の子たちにいじめられていた。その時、同級生の一人が友達になってくれたおかげで今では島で上手くやっていけている。
島に越してきた乃蒼を助けようと決めたのは、そんな経験があったからだった。
「私は世界に羽ばたく人間なのでね。あんなおバカさんたちのことは関係ないっすわ」
乃蒼はインフルエンサーを目指しているらしい。島からだと電波の関係か、上手くネット配信ができなくなったとよく怒っている。島はそんなに文明から切断された空間ではないが、ネット配信は難しいようだ。
「乃蒼って元気だよね」
「声を張らないと画面の向こうの人たちには聞こえないよ。ほら、咲那もみんなに手を振って」
「絶対やだ」
咲那は手のひらで顔を覆う。指の隙間から見えたスマホの画面には、ノイズが入っていた。
「まただ! こんなにすぐに電波が途切れるって、今どき太平洋のど真ん中でもないんじゃないの? どうなってんのこの島は! おおっ?」
スマホを振り回しながら怒っていたかと思うと、乃蒼はバス停のそばの民宿に目を向けた。民宿の前では、旅行者らしき女性が煙草を吸っている。
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