【一日目】-1

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 年は四十代くらいだろうか。白いワイシャツの上から黒いジャケットを羽織った女性が、眠そうに切れ長な目を半分閉じて、煙を吐き出した。 「おはようございます、なにしてるんですか? 子どもの前なので、喫煙はお控えいただけると幸いです」  乃蒼が近づくと女性はすぐに煙草を足元に落とし、島では見たことのない高そうな革靴で火を踏み消した。吸い殻はそのままに、彼女は民宿に入って行く。 「照れ屋なのかな?」  不思議そうに乃蒼は民宿を指さした。 「あほじゃん」  呆れた咲那の言葉を聞き流して、彼女はすぐに別のものに興味を移す。 「なにか事件みたいだよ、咲那!」  彼女は民宿そばの民家の前に停まるパトカーを指さした。  パトカーの前では、警察官と高梨のおばさんが話している。  島の交番には警察官が二人しかいないが、彼は最近島にやってきた若い警察官だ。高梨のおばさんと話している警官が、咲那と乃蒼に気づいて手を挙げた。 「君たち、仁汰くんのこと見てない?」  仁汰というのは、高梨さんちの小学三年生になる息子だ。このあたりでは有名ないたずらっ子で、よく海や山を友達と一緒に駆け回っている。 「見てませんけど? 乃蒼は?」  咲那は乃蒼を見下ろして目配せするが、彼女も知らないと首を振った。 「実は昨日から、仁汰君が家に帰ってないみたいで」 「まあ、あの子のことじゃけん、すぐ帰ってくるんじゃないかね?」  高梨のおばさんはそんなに焦った様子ではない。寝間着に黄色いカーディガンをひっかけ、腕組みをしている。
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