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空蝉を乗せた車は、内裏の中程で停まった。 白砂利の庭の遥か先、入り口に桜と橘の木を構えるその建物の名を紫宸殿という。 昔は儀式的なことを行う場所だったそうだが、御所内における火事により、いくつかの殿舎が消失。 現在は帝や臣下たちの集う朝議の場としても機能している。 まず圧倒されたのは、屋根の大きさだった。 さもあろう、2つの屋根が重なって造られているのだから。 傾斜は緩やかで、軒先が長く、その下には藤の花の意匠が施されている。 壁の白さは一片の汚れも知らず、左右の障子は締め切られ、日除けのためか、飾りなのか、御簾が吊るされていた。 階段を登り、黒々と開いた入り口の中へ、1人、また1人と貴族たちが吸い込まれていく。 纏う着物の色は深く、身分の高さを伺わせた。 ちなみに景樹は浅黄色。 最も身分の低いことを表す。 すん、と袖を引かれた。 空蝉が御簾から少しだけ顔を覗かせている。 「かげ、降りたい」 「……!すまん!」 慌てて後ろへ下がる。 牛車に付き従っていた者たちから忍び笑いが広がり、景樹は恥ずかしくなった。 空蝉はふわりと庭に舞い降りた。
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