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力強い烏の鳴き声に、景太ははっと顔を上げ、外を見た。
楓紅葉が揺れている。
朝日を受けて若葉はより透明感を増し、落とす影はまだ薄く、景太を招くその手は小さい。
狭雲月も中頃。
最近は雲の多い日が目立ったが、今朝はすっきりと晴れている。
楓紅葉に誘われるようにして、景太は外に想いを馳せた。
庭のあちこちで桔梗がその背丈を伸ばし、蕾を膨らませていた。透ける紫や白が、昨日より濃くなった気がする。
深い緑の葉は金木犀の木のものだ。秋には良い香りの花を咲かせるという。
景太は金木犀の香りと言われてもいまいちぴんとこない。
どこかですれ違っているはずらしいのだが。
秋が楽しみである。
もう一度、力強く烏が鳴いた。
烏は柿の木に留まっていた。
黒い羽が日差しでつやつやしている。空蝉の髪の毛みたいだ。
綺麗。
烏を見て何かを思うことなど、なかったというのに。
暮らしに余裕が生まれ、精神にゆとりができたのかもしれない。
耳を澄ませば、さらさらと水の流れる音がする。
空蝉の部屋の前を流れる小川のものだ。
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