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山から流れてきていて、長く晴れた日が続くと枯れてしまうような小さなもの。 しかしとても澄んでいて、夏には蛍が寄り付くと聞いた。 余談だが、この土地は小川のせいで長く人の手が入っていなかった。 なんでも雨が続いたり、嵐が来たりすると、溢れて酷い泥濘を作り出していたそうだ。 だから空蝉に与えられた。 小川が溢れないように整え、万が一溢れても害のないような屋敷を考案したのは葵なのだそうだ。 葵は空蝉のただ1人の側仕えである。 屋敷の管理や空蝉の世話を1人で担ってきた彼は、様々な分野で才能を発揮する、まさに天才であった。 景太などはもう、毎日感心するばかりである。 その葵は、今。 「っのやろっ!」 景太の着付けをしていた。 空蝉の屋敷に登ってすぐ、景太は身ぐるみを剥がされた。 そして訳も分からぬまま採寸され、7日後にはいくつかの着物が手渡された。 その1つが今着ているものだ。 成人男子の正装。 今日は空蝉と共に朝廷へ赴くのである。 かしこまった服など着たことの無かった景太は、朝餉の直後から葵に捕まり、支度をさせられた。 しかし動きにくい。 そこはかとなく息苦しく、手足が思うように出せない。
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