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「そなたの名を聞いたときから、こう」
こう、と喉を擦る。
「ここにつっかえていたのだが、ようやく思い出した。そなた、烏天狗は烏天狗でも、三羽烏の1人であろう?」
三羽烏。
瑞泉寺の僧兵の中でも精鋭中の精鋭である。
こいつが、と珍妙な視線を景樹と葵から受け、千景は居心地悪そうにきょろきょろした。
「そうだが」
「ならやはり、道源様も私と同じ考えということよ。でなければそんな秘蔵っ子を、易々私に預けるわけないわ」
秘蔵っ子という言葉に、千景が唇を引き結んだ。
気まずそうに目をそらし、心なしか首を縮めている。
どうやら照れているらしい。
そんな彼に、空蝉はとどめの一撃を食らわせた。
「道源様の宝物の力、私も見てみたいわ」
秘技、人たらし。
無邪気に請われ、断れる男はいない。
景樹は仏頂面で鼻を鳴らした。
同じようなことを、どこかで言われた気がしたのだ。
「なんなんです、この展開」
葵が肩を怒らせた。
千景が過ごすための部屋を準備するよう言われ、景樹たちは渡殿を歩いていた。
千景は今後のことを話すため、空蝉の部屋に残っている。
景樹も苛々しながら同調した。
「だいたい俺がいるのに、他の男を泊めなくても」
葵がはっとした。
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