16人が本棚に入れています
本棚に追加
そうですよ、と右足を強く踏み出す。
「なんでもっと反対しなかったんですか!」
「それは……」
景樹は口ごもった。
「俺が止めるのは、なんか、ちょっと……」
あまりのことに、葵の顔がみるみる歪んだ。
景樹様、と音もなく口が動く。
「そう、ですよね。男は包容力と硬さだって、実家の女たちも言っていました」
景樹は思わず2度見した。
子供になにを教えているのだろう。
しかし葵の表情は真剣そのものである。
意を決したように強い視線を前に向けると、歩みを止めた。
「景樹様。いえ、景樹さん」
つ、と景樹を見上げ、
「僕は今まで景樹さんのこと、空蝉様に拾われた、ただの幸運な野郎と思っていました」
「え」
とんだぶっちゃけである。
少なからず傷ついた景樹に気づかず、葵は続けた。
「ですが、貴方は真に空蝉様を想ってくださっている。僕はそういう方をこそ、待っていたのですよ」
遅ればせながら、空蝉様を無事に連れ帰ってくださり、ありがとうございました。
この時景樹は、葵の笑顔を初めて見た気がした。
瑞々しい緑の葉が、朝日の中で輝くような、はつらつとした笑顔であった。
「これからは共に空蝉様をお守りしましょう」
最初のコメントを投稿しよう!