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あれだけ駄々をこねたというのに、千景は屋敷に逗留している。 空蝉もなにかと気にかけてやっているようで、景樹はひとつも面白くなかった。 更に景樹たちは、千景に協力するよう、空蝉から言い遣ったのである。 こんな奴に何故、と葵と共に歯噛みした。 しかし下手な反抗をすれば、景樹たちの方が悪者になってしまう。 ここは正攻法でいくしかない。 とっとと事件を解決して、千景にはお帰り願おう。 だからこんな雨の夕暮れに、千景とふたりで歩いているのだ。 「ぜってえ捕まえて一発殴る」 息巻く千景に心は冷めていくばかりだが。 事件の一報が入ったのは、つい先刻のこと。 器の卸売りをしている店に盗賊が出没、店主に怪我を負わせて逃亡した。 店主は頭をやられていて、今も意識が戻らない。 貴族の邸宅が並ぶ区域から、高級な品物を扱う市を抜ける。 そこから橋をひとつ越え、庶民的な商店街を横目に南下。 大通りを越え、山に背を向ける形で歩き続けること数10分。 都の下町、職人たちの工房や住まいのある区画にやって来た。
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