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「これでも僕なりにいろいろ改良したんですよ」
口に出していないのに葵が反論した。
そう、この着物を縫ったのは葵なのだ。
「いざとなった時に動けるよう、本来よりも軽い生地を選びましたし。袖の膨らみも従来のものより少ない。そして、いざとなったら破れます。あとは武器を隠しておけるように腰元をですね……」
「すごいことは分かった」
とにかく使い手のことを考え、尽力してくれたことは間違いない。
この小さな頭にどれだけの知恵と閃きが隠されているのか。
「助かる。どうもな」
激務を1人でこなせたのは、間違いなく葵だったからだ。
自分では決して同じようには出来ない。
そして思い知るたび、景太の心に尖ったものが生まれる。
これがなんなのかはまだわからない。
そしてもう1つ。
「景樹様はあくまで護衛です。よくよく、そのお勤めを果たしてください」
景太は新しい身分と共に、新しい名を貰った。
景樹。
曰く、
「どうか私の大切な人たちを、陰日向に守って欲しい」
という空蝉の願いが込められているとのこと。
ただの景太は旅を終え、景樹として新しい人生を歩むのである。
「分かった」
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