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とんとんとんとん。
雨の音に混じり、金物を打つ音がする。
見れば、工房の奥で男が玄翁を振るっていた。
同じような工房はいくつもあった。
扉を開け放ち、皆黙々と作品に向き合っている。
これならば犯人を見た者もいるのではないか。
そんなことを思いながら、景樹たちは被害のあった店までやって来た。
店の前には検非違使の役人が立っていた。
まず千景を見て、ぐっと顔色を変える。
「何者だ」
役人の利き手が刀に触れるのを見て、千景がああん、と凄んだ。
景樹はげんなりした。
役人が疑うのも無理はない。
何しろ賊は僧兵の格好をしているのだ。
同じ姿をした千景を警戒するのは当然というもの。
ここは手を貸してやるべきだろう。
景樹は千景の前に出て、空蝉から預かった証文を見せた。
「申し訳ない、空蝉様からの申し付けでこちらに参った」
「はあ……」
役人ははっきりしない返事をし、証文と景樹を交互に見た。
千景の時よりも更に疑り深い目をしている。
言いたいことは分かるが、こちらには証文があるのだ。
じろじろ見るならば顔ではなく、証文の中身にしていただきたい。
「空蝉公?」
店の奥から声がした。
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