16人が本棚に入れています
本棚に追加
遥か昔。皇家の始祖となった人々は、先住民を虐殺し、領土を略奪した。
古の民はこれを深く怨み、代々帝の正室が産んだ女子を呪っている。
空蝉は策略により、今上帝の長女の依り代となった。
それを秘匿したい連中は、空蝉が活発に動き回るのを良しとしない。
どこかで命を落とせば好都合だと、つけ狙う者は多いのだ。
その結果、空蝉は間者をただの間者などと表す始末。
更には自分を傷つけることに躊躇いがない。
それは良くないことなのだと、いつか伝われば良いが。
景樹の密かな課題である。
葵は最後の腰紐を結ぶと、暗い陰を目元に落とした。
「なにも体だけではないのです」
着付け道具を道具箱にしまいながら、葵はため息混じりに言った。
「朝廷は、空蝉様の心も傷つけるのです。もし関わらなくて済むのなら、そうして欲しいくらい」
でも。
「空蝉様はあそこを戦いの場に選びました。僕に出来るのは、戦うための武器を準備したり、整えたりすることだけです」
葵はそれが悔しくて悔しくてたまらないのだという。
「景樹様なら大丈夫ですよ、きっと」
「そうか?」
「はい。多分そうやって突っ立っているだけで、皆逃げ出します」
「……」
それは自身の力ではないのではないか。
というか、これは遠回しに人相が悪いと言われているのではないか。
最初のコメントを投稿しよう!