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「見ていて微笑ましいくらい、仲の良い姉妹です。ですから、先入観など持たず、どうかまっさらな目で見てきてください」
葵は道具箱を小脇に抱え、にっこり笑った。
癖の強い茶色の髪が、くるくると風に弄ばれていた。
それにしても苦しい。
渡殿でぼんやり庭を見ていると、角から空蝉が現れた。
目が合う。
空蝉は何故か軽やかに身を翻し、角に消えた。
するり、下襲の長い裾が別の生き物の尾のように、床を滑っていく。
「?」
挙動不審である。
どうしたというのだろう。
変なのは今に始まったことではないが。
しばらくすると、空蝉がまた顔だけ覗かせた。
今日は目尻と唇に深い赤色の紅をさしている。白い小袖と丹色の単衣の上に黒い袍を重ね、同じ色の衵を纏っていた。
そして、いつもは下ろしているか、結っていても緩く括っている髪を、今日は根本できっちりと結んでいるのだ。
深紅と黒に囲まれて、生白いうなじにやたらと目がいってしまう。
思わず景樹は唾を飲み込んだ。
空蝉はきゅっと唇を噛み、もじもじしながら近づいてきた。
「……変?」
「いや。貴公子みたいだ」
「そ」
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