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プロローグ
今宵は月の明かりがうるさい。
早々に店仕舞いをした頚楼の親父は、干した鯵を肴に、貰い物の酒を飲み続けていた。
夜半過ぎ、寝床につく。
どこかで酔漢が盛大に吐く音がし、遅れてすえた匂いが漂ってきた。
「きたねえ町だなぁ」
誰にともなく呟く。
目を閉じても月明かりはしのげず、白い光が瞼に忍び込んでくる。
親父はごろりと月に背を向けて、頭まで毛布を被った。
物音がしたのはその時だった。
誰かが裏口から近づいてくる音だ。
しばし、考える。
その身分を明かせぬ依頼人は、よくこんな時間にやって来る。
しかし大概は表口の方から近づいて来るので、その線は薄いだろう。
次に考えられるのは賞金稼ぎの誰か。
依頼を果たして帰ってきたのかもしれない。しかしそれでも裏口から入ってくる理由がない。
奴らは大抵、表口を乱暴に叩き、帰還を知らせてくる。
となれば、残るは1つ。
親父は枕元に置いていた木刀を手に、裏口を睨み付けた。
この辺りは治安が悪い。
儲けのある店を狙って盗みが入ることも、決して珍しくはないのだ。
俺をどこの誰と思っていやがる。
親父はうっそり笑った。
返り討ち、それも10倍にして返してやろう。
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