友人

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友人

 ジャンク・ジャーナルを知っている人がいる。  一郎は少なからず驚いた。  リアルでジャンク・ジャーナルの話をしたことがなかった。 「お茶でも飲んでいってください」  せっかくだからと、アウトドア用の椅子を2脚置き、ペットボトルのお茶を差し出した。  彼女は戸惑った様子もなく、お茶を受け取ると椅子に腰かけた。 「あ、ありがとうございます。  私もジャンク・ジャーナルの読者なんです」 「へえ。  僕も定期購読してるんです。  こうして読者の人と話すのは初めてですよ」 「ふふふ。  私もです」 「グループチャットには参加してますか」 「私、文月 乙葉(ふづき おとは)です。  ニックネームは オト です。」 「ああ、紹介が遅れました。  山川 一郎(やまかわ いちろう)です。  チャットでは MRロイチ です」  お互いに、同じ雑誌を読みチャットでも同じグループにいた。  急に親近感がわいて、ずっと前から知り合いだったような気分になった。  秋の日差しを胸いっぱいに吸い込む。  (とき)が、じんわりと体に滲んで入ってくる。  めまいのように身体が斜めにゆらぎ、明日の予定など意識の彼方に消えていった。  一郎は事務系の仕事をしていてたまったストレスと疲れを、他人の取り留めない日常を垣間見ることで解消できると言った。  本心から思っているし、スポンサーに気を使って偏った記事を書いたりしない編集部の姿勢が他にはない輝きを放って、新鮮な感動をもたらしていた。 「私、友だちとこんな話あまりしないので貴重な方と知り合えました。  またお邪魔していいですか」  屈託なく笑った彼女は魅力的に映った。  自分は心を開いて、誰かと話したことがなかったのではないかと初めて考えた。  体中が熱く火照っている気がする。  血液がサラサラと音を立て、鼓動が静かに胸を打つ。 「もちろん。  じゃあ、連絡しますね」  我に返った一郎は、少し狼狽していた。  庭の落葉の茶色が、色づいた紅葉のように深い色合いを増していた。  連絡先を交換した二人は、短いやり取りをして別れた。
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