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光色に染まる街々と
大きな雨雲が通り過ぎた後の街は、洗われたかのように美しく煌めき出す。その様子を雷神は雲の上で、頬杖をつきながら見つめていた。
雨が降っている時の街も傘の色合いが際立ちカラフルで綺麗なのだが、やはり、彼───雷神は乾き切らない水たまりと、雨が止んだのかと、空を見上げる人々の姿が好きで、その景色が何よりも綺麗だと心の底から感じていた。
「雷も相変わらず好きやなぁ、雨上がりの街を見るの」
何が面白いんかボクにはわからへんわぁ、と。呆れたような口ぶりで、藍色の瞳を伏せながら風神は、誰よりもいつよりも、金色の瞳を輝かし街を見つめている雷神に対して言った。
風神と雷神は、それぞれ、風を仕る神と雨雲をつかまつる神であった。先代である父からまだこの座を譲られたばかりで日が浅い二人は、経験も浅く人々を困らせることもあったが、楽しく神として経験を積んでいた。ちなみに、風神と雷神の見分け方は、瞳の色である。風神は海の様に深い藍、雷神は雷の様に濃い金の瞳を持っていた。その他の簡単な見分け方といえば、口調ぐらいだろう。風神は少し天界訛りの方言を話す。それ以外は瓜二つで、二人がおんなじ髪型をして瞳の色を隠せば、まるでどちらかかはわからないほど、二人は酷似していた。
厳しめの口調だが実は優しい雷神とは違って、風神はどちらかと言うと、雨が急に降り出し、慌てふためく人間の様子を見る方が好きだった。ボクが雷の力持ってたらめちゃめちゃ暴れたやろなぁ、と風神は雷神の方を見つめて思う。
だが、そう思われていることを露ほども知らない当の本人は風神の方を見ずに、ぽつりぽつり、言葉を放っていった。
「何が好きって……、だって、綺麗じゃねぇか」
「……どこが?」
「どこがっていうか……、雨上がりの街ってキラキラ光ってるじゃん? それが綺麗で、目が離せない」
じゃん?って言われても、わからへんよ。と風神は思ったが、ぎりぎりのところで言葉を呑み込む。雷神は時たま外れたことを言う時がある。彼がそう思うならそれでいい。意見を言って対立し合う必要はない。それに、そう言う目で風神も街を見下してみれば、街は確かにキラキラと輝いていた。
水たまりに反射する鮮やかな光。見上げる人々の瞳が捉える優しい雨上がりの日差し。キラキラ燦々と街は、雨が降る前よりも強く美しく輝いた。雨上がりの街は光色に染められ、煌めいた。
そして、何よりも───
「な? 綺麗だろ?」
風神は一心不乱と街を見つめている雷神を見つめて「あぁ、そうやなぁ」と言葉を溢した。確かに、綺麗だと、心の底から思う。
光色に染まる街々と───そして、何より、その街々を見つめる、とびきり輝く光色に染まる雷神の瞳が風神にとっては、何よりも美しかった。綺麗だった。
「………ボクも好きやわぁ」
風神がぽつりと溢した言葉に、雷神はクルッと彼の方を向いて「な!」と嬉々として言った。
「父さんは同意してくれないし、周りにいる人といえば風か風のお父さんだけど、風のお父さんはこえーし。同意してくれるヤツいて嬉しいわ」
「やっぱ風が相方で良かった」と。その姿と言葉を聞いて、今度は、風神の方がボッと朱色に顔を染め上げる。特に何も思っていない様なその言葉は、風神にとっては他でもない恋文だった。バクバクと心臓が大きな音を立て、全身に血液を送る。心音が高まるのとシンクロする様に、地にはふっと爽やかな風が吹き抜けた。
そして、一層。洗われた街々が太陽の光を受け光色にゆらりと煌めいた───ような気がした。
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