転入生はヒロインではないらしい

8/8
296人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
そんな言い合いを続けているうちに俺は唐揚げ定食を完食した。一緒についてきたおしんこもしっかり食べ終えて空っぽで綺麗な状態の皿を見る。向かいに座る佐藤と一ノ瀬も食べ終わったようだ。まぁここに長居してもいいことは無いし立ち去ろうとする。 そうすれば言い合いの中に突然割り込んでくる低いテノールの声。 「おい。お前の言ってた面白いやつっていうのがこの汚い奴か?」 その声はどうやら生徒会の王、生徒会長から放たれたものだったらしい。スルーされていたのがむかついているのか若干イラついた顔をしている。それを見て北条副会長は「ええ、」と控えめに返事をした。 「ん?誰だ?お前。あと人に向かって汚いとか言っちゃダメなんだぞ!!」 間に挟まれていた転校生はどうやら調子を取り戻したようで付き合っている発言に顔を赤くしていたのを通常に戻していた。 「は?俺様に誰だと?」 「榊、彼は今日来たばかりですよ」 「俺は天音瑛人!!!今日からこの学校の一年だ!!気軽に瑛人って呼んでくれ!」 そんなオラ悟○!みたいなテンション感で言われても面白いだけである。正直未だにこんな小学生みたいな友人の作り方するやついるんだ、と尊敬の念を抱かざるおえない。ただこうも好意的に友人になりたいと言われて嫌な気分になるやつはいないだろう。少し声のボリュームがでかいが。 「…はっ、いいだろう。特別に教えてやる。俺様はこの学校の生徒会長、榊怜央だ。」 「怜央、か!これからよろしくな怜央!それにしても生徒会長なんてすごいな!!」 「…なんだおまえ、ふは、」 「え、」 「…おもしろい、気に入った」 そんな会話を聞きながら「片付けるか」なんて一ノ瀬とやり取りをしながら立ち上がる。まぁ特に興味もない会話だしな。だが突然、話し声がやんだ。時が止まったかのように辺りが静かになる。ん?と疑問に思い話のやんだ方をみれば 生徒会長がもっさんにキスをしていた。 それもほっぺとかでもない。口である。 他人のキスの場面を目撃することになるとは思っていなかったが、正直見た目が見た目なだけにきついな… そんなふうに少しだけ顔をゆがめていれば食堂内を地割れが起きるかのような絶叫が包んだ。ギャーともキャーともイヤーとも聞き取れる声は今まで聞いてきた歓声のどれよりもでかい。だがそれは絶望のような声。アトラクションに乗っている時に出る悲鳴だった。 それに意識を取り戻したのか生徒会長を強い力でドンッと押して転校生もその反動で後ろに下がる。口元を拭って真っ赤な顔で「いきなりなにすんだよ!!」とクソデカボイスで叫んでいた。 だが思った以上に反動がデカかったのか転校生はその大きな力で食器を片付けようとしていた俺に盛大にぶつかった。 体制が悪かったのか支えきれず俺は食堂の床に転ぶ羽目になった。 …最悪である。 トレーにのっていた食器が地面に落ちてガシャーン!とパリーンが混ざった音が鳴り響いた。今まで外野にいた俺に一気に嫌な注目が集まる。 やっちまった、と咄嗟に思った俺は床にちらばった食器をトレーに戻そうとした。ああ、謝らなきゃな、と思い膝まづいたまま片付けていれば 「大丈夫?」 と目の前からなにやら甘い声が聞こえてきた。耳に心地よいその低い声の主を知るため目線をあげればそこには金髪のなんだかチャラそうな人。 あ、この人会計の人か、と思い出すのに数秒を有して一泊置いてから「大丈夫す」と返事をした。心配している割にはなんだかニヤニヤと笑っていて変だなとは思った。 だけどそんなことより今はこの割れた皿を回収するのが先である。そう思い破片に手を伸ばそうとした俺の手をパシッと掴んだのは紛れもない会計だった。 「破片を素手で触ろうなんて危ないよぉ〜働いてる人呼ぼ?」 そう言うと会計の人は大きな声で「すいませ〜ん!」と厨房側に叫んだ。そうすればひょっこりと食堂のお兄さんが顔を出して急いでほうきとちりとりを持ってきてくれる。 「大丈夫?怪我はなかった?」 「あ、俺は大丈夫っす。すんません、皿割っちゃって。」 「平気だよ。怪我がなくてよかった。早乙女くんは?」 「俺もへ〜き。見てただけだしね〜瑛ちゃんは?」 「…ぁ、へ?あ、俺か!?」 「そ〜瑛人くんでしょ?」 「あ、お、おう!俺も大丈夫だ!」 「なら良かった。食堂ではあんまり騒がないようにね?」 「は〜い。ごめんねさっちゃん。」 「さっちゃんはやめてって。全く。じゃあ俺はもう行くから」 「あ、ありがとうございました。」 「ありがと〜」 そうしてお兄さんがいなくなった後にまた会計の人に声をかけられる。 「ほんとに怪我してない?」 「あ、はい。止めてくれたおかげで。話の途中ですんませんわざわざ。ありがとうございました。」 そういって頭を下げて礼をすれば会計の人は目の前で手をヒラヒラと振って「いえいえ〜」と人懐こい笑みを浮かべる。すると突然、目をスっと細めて俺の顔を覗き込んできた。なんだ?と思い視線を絡めていると 「…だって俺、瑛ちゃんより君の方がタイプなんだよね」 と言ってきた。それに内心は?としつつも途端に離れていく会計の人を見る。その顔はヘラヘラと楽しそうに笑っていて。 「おい。何遊んでんだ。もう行くぞ」 そうして会長に声をかけられた会計は「じゃあ、またね〜」なんて声をかけて生徒会専用の上に繋がる階段を上っていった。いつ連れ去られたのか副会長の脇にはあのもっさんがいる。綾辻と柳田もそれになにやら非難の声を上げながらついて行っていた。 なんだあの列、と思いつつ一ノ瀬と佐藤をみれば一ノ瀬はなにやら複雑な表情で、佐藤は顔を真っ赤に染めて何かを言いたげにこちらを見ていた。 「なに?」 「いや、悪いな。咄嗟にいけなくて。普通にビックリしてた」 「いや別に。会計の人がなんとかしてくれたからな」 「会計さんとのフラグ立ってんじゃん新!!!最後になんて言われてたの!!?」 「…あんま覚えてねえや。焦ってたし」 「あ、焦ってたんだ…全然そうは見えなかったけど」 「まじ?結構焦ってたけどな。やべって」 「お前は表情に出なさすぎなんだよ。」 「とりあえず会計×新の可能性が増えたことに感謝…」 「なんか腹立つから殴っていいか?」 「だめ!!!」 そんないつも通りのやり取りを終え、食堂での事件も幕を閉じた。 だがここから喧騒はどんどん激化していく
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!