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「もしかして、樹くん?」
「え?あ、彩花さん?」
声の主は、学年が二つ上だった小泉彩花だ。
肩に付くぐらいのウェービーな髪がふわりと女性らしい。
その途端に、樹の脳裏に高校時代のことが蘇ってきた。
幼い頃から憧れていた近所のお姉さん・美里。
そんな美里が結婚してアメリカに行ってしまい、絶望に打ちひしがれ、自分もアメリカ人になれたら何か変わるのかもしれないという、今思えば稚拙な考えが元で金髪にしていた樹。
そんな樹に歩み寄り、可愛がってくれたのが彩花だった。
だが一つ、問題があった。
どんな可愛い子に告白されても必ず断るという都市伝説のようになっていた樹が、そんな彩花とつき合っているという噂が流れ、一時期校内は騒然となったのだ。
樹にしてみれば、つき合っていたつもりは無かった。
落ち込んでいた樹を元気づけてくれたのが彩花だったというだけだ。
なのに、いつの間にかそんな噂だけが一人歩きしていたのだった。
実際は落ち込んでいるところを彩花から気合いを入れられていただけで、男女の付き合いらしいことなど何一つなかったのだ。
「やだー!お久しぶり!元気にしてた?」
「はい、彩花さんの方こそ。お元気でしたか?」
お互い向かい合って笑顔ながらの挨拶。
「うん!元気だけはずっとトレードマークだよ!」
にっこり笑ながら彩花は続けた。
「樹くんカッコ良くなったねぇ。あ、ううん、前からカッコ良かったから、もっとだね!」
「え?そんなことないっす」
樹が少し照れた顔を見せると、彩花は楽しそうにしている。
「ううん、超イケメンだよ。凜々しさが増して大人のオトコの雰囲気ダダ漏れ」
「そんなこと言われたら調子に乗っちゃいます。彩花さんだっておキレイです。大人の女性って感じで」
樹に「キレイ」だと言われた彩花は少し頬を染めて笑った。
「やだ~そんな、樹くんこそキレイな顔してるのに~。照れるわよ~」
言いながら、樹の肩をバシバシ叩いて彩花は嬉しそうだ。
「彼女以外にそんなこと言うもんじゃないよ」
「ああ、彼女……いないので」
樹がそう言うと、彩花はピクッとして止まった。
じっと彩花は樹を見つめ続けている。
「そうなんだ、もったいないね」
あはははと笑いながら、相変わらず彩花は樹の右肩をバシバシ叩いていた。
そんなふうにしていると司会の女性がマイクを持って話し始めた。
最初に理事長、続いて校長、教頭と話は続く。
樹たちが通っていた頃よりも彼らには少ししわが多く刻まれていたり、髪が白くなっていたりした。
卒業生代表として三人ほど話が続いたあと、大広間のど真ん中に設置されたモニターには学校を紹介する映像が流れ始め、観ているととても懐かしく感じてくる。
一通り流れ終わったあとは、再び同窓会の方がメインに戻った。
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