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そのうち閉場時間の二十一時がやってきた。
名残惜しいが、これでお開きだ。
樹と忠士、昇太の三人は新横浜の駅へと向かったが、昇太が忘れ物をしたと言って一人で会場へと引き返した。
忠士はコンビニで買い物をするとかで店に入っていった。
樹は一人で歩道橋を歩き駅に向かっていたが、後ろから呼び止められて振り返った。
「樹く~ん!待ってー!」
「え、彩花さん?」
パンプスで走り寄り、樹に追いついた彩花ははぁはぁ言いながら笑った。
「樹くん見つけたから追いかけてきちゃった」
「そりゃどうも。ていうか大丈夫ですか?そんなに走って」
彩花は樹の腕に捕まり、少しの間その場で乱れた息を整えた。
「ねぇ、良かったらちょっとどこかで飲み直さない?」
突然の彩花からの申し出に、樹は面食らった。
「ほら、積もる話もあるでしょ?久しぶりだし」
「あ~……いいですよ。どこ行きます?」
二人は揃って駅の近くの居酒屋へと入った。
先ほどの創立記念パーティーとは打って変わって、和風の面持ちである。
彩花はビールをジョッキで注文し、ぐいっと喉の奥へと流し込んでいく。
その様子を見ながら、樹もジョッキに口を付けた。
「彩花さん、お酒強いんですか?」
彼女の様子を見て樹は尋ねた。
そんな樹はかなり酒に強いため、先ほどからもわりと飲んではいるが顔色ひとつ変わっていない。
「強いわけではないけど、ビールは好きなの。樹くんはバーテンダーなんですってね?お店に行ってみたいなぁ」
頬を赤く染めながら彩花は言った。
「機会があれば、いつの日か」
樹はふっと微笑んだ。
「ほら、注文したら目の前で作ってくれるんでしょ?樹くんカッコいいしピッタリだよね」
そしてまたひと口、ビールは彩花の喉に注ぎ込まれる。
樹は枝豆を食べながら延々と続く彩花の話を聞いていた。
「ねぇ、樹くんとこうやって話すのって久しぶりで嬉しいな。全然変わってないね」
「彩花さんこそ。あの頃も明るくて楽しい人でしたし」
一時間半ほど賑やかな時間が続き、二人は店を出た。
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