青春の輝き

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 しばらくの間、樹は何も言わずに一人で空を見上げていた。  暗い夜空に一際明るく輝く三日月がぽっかり浮かんでいる。  おもむろにポケットからスマホを取り出してパシャッと撮影してみた。  しかし、上手に写せない。  もどかしい気持ちのまま、樹はメッセージアプリを立ち上げた。 (樹)空、見れる?満月じゃないけどすごくキレイなお月様。  しばらくすると既読が付き、すぐに返信が来た。 (しおりん)見たー!きれ~い!!教えてくれてありがとう~!  ウサギがハートマークをたくさん飛ばしているスタンプ付きだ。  樹は小さな画面を見ながらふふっと笑い、そっとジャケットのポケットへとスマホを滑り込ませてもう一度空を見た。 「早くオトナになれよな」  呟いた言葉は静かな夜空に消えていく。  樹は再び駅へと歩き始めた。  蝶ネクタイにベスト。  そして白いワイシャツに黒いパンツ姿。  鏡の前でビシッと決めて、樹はロッカーの扉を閉めた。 「樹クン、昨日は同窓会楽しかった?」  にっこり笑う伊織に、樹も笑って答えた。 「はい、楽しかったですよ」 「誘惑には勝てたかな?」  含みを持たせた言い方に、樹も口元を緩ませた。 「大した誘惑じゃありませんでしたよ」 「そっか、そりゃあ良かった」  見慣れた店の、見慣れた一場面。  カウンターの奥ではオーナーの篠原もガハハと笑っていた。
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