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「悪い! ライアー、匿って!」  ホームルームぎりぎり、窓際一番後ろの席へ座るライアーを目がけ、切羽詰まった低い声が滑り込んでくる。  時間差で、目の前の廊下をおびただしい数の女性獣人たちが通り過ぎていく。 「もしかしてその声は、リオン?」  訊ねるや否や、ライアー自慢の大きくてふさふさのオオカミの尻尾に、なにかがもふっと埋められる。  そうして返事の代わりに、埋められたなにかが二度ほど、こくこくと頷くように動いた。  どうやら埋められているのは、リオンの顔らしい。  ちらり尻目で確認すると、案の定そこには背が高すぎて隠しきれていないベージュのさらさらした頭頂部と、草食獣人を現す長い垂れ耳がぴるぴると震えていた。 「どうしたの? マネージャーさんは?」  もう二人とも十八歳になったというのに、ライアーはつい小さい頃からのクセで、尻尾でリオンの頬をよしよしと宥めてしまう。 「他にも仕事があって悪いから、校門のところで降ろしてもらってそれからひとり」  オオカミのボリュームある尻尾に撫でられ、リオンは気持ちよさそうに自らも顔を擦りよせていく。 「……相変わらず幼馴染の距離とは思えないほど、激甘なスキンシップだなあ。こっちが見てて恥ずかしくなる」  砂を吐くぜ、と呆れたように口を挟んできたのは、ライアーの前に座る、高二から同じクラスとなったライオン獣人のレオだ。  起源が肉食獣人のカーストトップへ君臨する百獣の王で、家柄も容姿も生まれた時からすべて申し分ないせいか、大抵のことにレオは動じない……のだが。  ライアーとリオンがこうして幼馴染特有の触れ合いをやり始めると、たちまちレオは目のやり場に困るといった風体で、そわそわし始めるのだ。  
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