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「ぼく、ライアーっていうんだけどキミは?」
肉食獣人の中でも比較的大きい個体であるオオカミ獣人として生まれたライアーは、同じ年頃の子どもたちより大きすぎるその手を、有効の証として躊躇うことなく差し出していた。
途端、隣に座るその草食獣人はびくびくと震え出す。
そうしてライアーはなにもしていないにも関わらず、なぜかべしょりと泣き始めてしまう。
「ええっ! どうしたの?」
慌ててライアーは制服のズボンの両ポケットに手を入れ、ハンカチを探す。
とにかくこの子の涙を拭い、笑顔にさせてやりたいのだ。
けれど、いくら両脇のポケット、果てはジャケットのポケットを探ってもハンカチは出てこない。
朝、ライアーの母がアイロンがきちんとかかったハンカチを手渡してくれたはずなのに。
──どこ、どこ、どこ? ぼくのハンカチどこ?
戸惑いを隠せないライアーをよそに、まだ目の前の黒真珠の瞳は大粒の雨を溢れさせていた。
──ど、どうしよう……。あ、そうだ。
ひどく困惑していたはずのライアーは、たちまち名案を思いつき、次の瞬間、その黒真珠が収まっている目の縁に、ちゅっと口づける。
「……え?」
すると黒真珠からとめどなくこぼれ落ちていた雫は、ぴたりと止んで、代わりにその真ん丸な瞳をライアーだけに向けてきた。
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