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「だいたいさ、アロマのお店でしょ? アロマエッセンスだけ売ってりゃいいじゃない? なんでマッサージまでする必要あるの? 他の女の腕や足を嬉しそうにベタベタ触って、キモイったらありゃしない。アロマ全部をやめろなんて言ってないのよ、私。マッサージだけやめろって言ったの」
いや、アロママッサージも仕事の一環だと和兎さんは思っているのに、それはナイだろ?
「で、あまりに私の言うこと聞かないから離婚届を書いてテーブルの上に置いといたってわけ」
俺、何度か「奥さんの気持ち、わかる」と思ってたけど、やべえ。
これは全然分からない。
嘘を吐いてまで、和兎さんに結婚を迫る? しかもその嘘が人道的にどうよってヤツだし。
冗談や脅しで離婚をする?
(自己中過ぎるだろ……?)
「あんた、和兎さんと何年一緒にいたんだよ?」
「え? 学生の頃からの付き合いだから……12年くらいかなぁ。それが、何か?」
「それで、和兎さんの何を見てきたんだよ?」
「何って……」
あれだけおしゃべりな理恵さんは答えに窮した。
当然、答えられるわけがない。
和兎さんのうわべばっかり見ていて、中身を知らないのだから。
「何よ、元・嫁に失礼ないい方ね」
答えられないのを、怒って誤魔化された。
「まあ、いいわ。ここで会ったのも何かの縁」
よく言うよ。
大方、店からこっそり俺の後をつけてきたんだろうに。
「和兎に特別な人が居なさそうって言うのなら、君にお願いがあるの」
「なんで俺に」
「君が和兎のお気に入りみたいだからよ。君の言う事なら、きっと和兎は聞くわ」
(俺が、和兎さんのお気に入り……?)
理恵さんにはそう見えるらしい。
悪い気はしない。
「『わざわざ元・嫁が訪ねてきたんだ。素直になって元鞘に収まれ』って言って」
前言撤回。
悪い気しかしない。
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