待ち人、来ず。

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待ち人、来ず。

 夕暮れの喫茶店。  俺は3杯目のコーヒーを飲み干し、どうしたものかと考えていた。  1杯目だけは正規の値段の450円。それ以降のおかわりは、何杯飲んでも1杯100円という気軽さから、時間潰しについ頼んでしまう。  だけど、既に約束の時間から1時間半が過ぎようとしていた。  携帯のネットニュースも、見飽きた。 「待ち人、来ず」  おみくじの言葉が頭を過った。  さっき、通りすがりの神社に駆けこんで神様にお願いをした。  今日は、和兎さんと初めての待ち合わせ。  お互い「デート」という認識はない。  だって、俺はそんなこと一言も言ってない。和兎さんだって、観たい映画を一緒に観に行く程度の感覚だ。  そういう話しかしていないから。  でも、俺は違った。  大好きになってしまった和兎さんと出かけられるのは嬉しくて、1万円もした高いデニムとお気に入りのパーカーを着て、この喫茶店で待っていた。数日前から今日を楽しみに生きてきたと言っても過言ではない。  空のコーヒーカップを前に、あまりに暇だったのでさっき引いたおみくじをもう一度開いて見た。 「恋愛 難し」  とも書いていた。 (……縁起でもない)  俺はすごく意気込んで、今日という日に臨んでいたのに。 (告白、やっぱやめとこっかな)  と、「小吉」のおみくじをデニムのポケットに押し込んだ。
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