十夢君、留年す。

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十夢君、留年す。

 俺は、上島十夢(うえしまとむ)。  大学の2年生の20歳だ。  先日、進級必須の単位を落とし、留年が決定してしまった。  これまでそんな失敗をしたことがない俺は、正直、どうしていいか分からなくて途方に暮れていた。タイムマシンがあったら、時間を戻してやり直したいくらいだ。  難関高校をトップ成績で卒業した俺は、当たり前のように難関大学に進学した。これまで受けた授業も、すべての単位を取ってきている。  いわゆる順風満帆だったのに、迂闊にもレポートの数が足りてなくて、必須単位を落としてしまったのだ。  なんてことないケアレスミス。足りていると思い込んでて、レポートの数を最終チェックしなかった。  あの時、しっかり単位認定条件をもっと読みこんでおけば良かったと悔やまれる。  が、今となってはどうしようもない。  もらった成績表の「不可」の赤い文字に涙が滲んだ。  その単位には、追試も再試も救済措置はない。来年、もう一回二年生をして取るしかない。  俺の友達だった奴らが、来年は俺の先輩になる。  俺だけ置いてけぼり食らわされたようだ。  ずっとストレートで希望通りに進学してきた俺の人生に、初めて汚点が付いたんだ。  落ち込まない方がおかしいだろう。 「十夢。いい加減元気出しなよ。くよくよ考えたって、どうしようもないことなんでしょ?」  成績表をもらって3週間経ったある日、姉の樹里(じゅり)が、見かねて言った。 「お姉ちゃんが元気出るとこ、連れて行ってあげるわよ」  正直、どこにも行きたくなかったが、姉に抗う気力さえもなかった。  こうして俺は、姉の行きつけのアロマセラピーの店に半ば強引に連れて行かれることになった。
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