十夢君、留年す。

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 姉のハマっているアロマの行きつけの店は、家から駅に向かう途中の商店街の一本脇に入った所にある。 (よくこんな店、見つけたな)  と正直、思った。  商店街の派手な店に対して、その店はすごく地味に思えたからだ。  元々は民家を改造しているらしい。  木製の重たいドアをあけると、中は木目が美しいナチュラルティストの家具が並び、ゆったりと座れるソファや椅子が並んでいた。カウンターがあって、こじんまりした喫茶店を思わせる。  だけど、もちろん喫茶店ではない。  壁の棚には、上から下までエッセンシャルオイルが所狭しと並び、カウンターにはアロマディフューザーが優しい光を放ちながら白い蒸気を吐いていた。奥は、どうやら厨房だ。お客にハーブティーなどのドリンクをサービスで提供している。要予約だけど、エッセンシャルオイルを使っての首・肩・腕・足のマッサージもしてくれるという。 「どう? ここは疲れたキャリアウーマンのオアシスなんだよ」  今年社会人になったばかりの樹里が誇らしげに言った。 「だったら、大学生のオアシスにはならないな」  と言うと、 「もー! そう言う所が可愛くない!」  樹里が俺のおでこをピンと弾いた。  いかにも女性が好きそうな、おしゃれな癒し空間……それが稲葉和兎(いなばかずと)さんが一人で経営するアロマセラピーのお店だった。
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