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――あの頃の私は、酷く人間関係にも金銭関係にも疲れ果てていた。
仕事中ふと気が抜けると怒りに支配されかけ、我を忘れ全てを壊しかねない程。
ままならない現実への怒りと悲しみに満ちていた。
ひとり旅を決断した瞬間も、そんな時だった。
旅好きな母方の血筋が功を奏してか否か、思い立ち決断した途端。
隙あらば侵食しようと迫り来る怒りよりも早く、旅費や行き先を計画する楽しさの方が上回り――気が付けば圧勝していた。
行き先は、敬愛する作家の生まれ故郷であるI県K市。
しかも市内に好きな画家とその恋人が過ごしたとされる温泉地があると知り、この幸運の巡り合わせに酷く感謝した。
泊まり先はその温泉地(Y温泉)にあるゲストハウスを選んだ。
日時は自分の誕生日である9月某日に合わせて1泊2日。
少し物足りない気もしていたが、これが初めて出るひとり旅だと思えば、まぁ良いかという気持ちにもなれた。
旅費は貯金から半分、稼ぎからもう半分と計画し貯めていこうと決めた。
当然旅費を稼ぎ貯める為の日々は早かった分、忙しかった。
夜のみだが、豆大福生活を送るのも最早厭わなかった。
だがその苦労の甲斐あってか、旅費は着々と貯まっていき――
迎えた9月某日。
私は無事、予定通り出発が叶った。
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