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三、 『超初心者アルバイト』隆男。
これ以上は、ギブアップ。
「え? 置いてないの?」
客は、商品を陳列している棚を、ぐるりと見渡した。
「あのー、僕『初心者アルバイト』なもんで、お客様の言われた物がどんな物か、よく分からないんです。申し訳ありません……」
と言って、隆男は首から下げた名札を客に見せた。
『初心者アルバイト』
「ああ、そういうことね。欲しいのはハーケンって会社の、シートをカムで引っかけて止めるクリートのことなんだけど」
「あのー、ですから……、そのシートとかクリートって何でしょうか?」
隆男は、お客がキレはしないかと、脇の下に汗をかきながら恐る恐る聞いた。
突然客がプッと吹いて笑い出した。
「ははははは、君ホントに超初心者なんだね。言葉で説明するのは難しいなあ。おっと、君の右側の棚にあるやつが、ハーケンのカムクリートのようだ」
「え、これですか」
右の棚にあるビニール袋に入った7~8センチほどの部品を、隆男は摘まみ上げた。値札は7,150円となっている。
「うへ、これって、7,150円もするんですか」
「まあ、そんなもんだよ。それ二つちょうだい」
客は平然と答える。高価であることを承知の上で買いに来ているのだ。
「はい、ありがとうございます」
客が帰った後、隆男は名札の『初心者アルバイト』の前に、『超』を書き加えた。名札が功を奏したのか、その後ショップを訪れる客は、むしろほほえましく隆男に接した。
昼休憩をはさんで、ショップの業務も少し慣れて来た。隆男が、棚に置いてある商品名を確認している時だった。
「白いセールクロスと、ケプラーのシートとショックコードある? あ、それからシャックルキーも」
客だ。背後から少しハスキーボイスの女性の声がした。
「はい、えーと少々お待ちください」
隆男は、ポケットからメモ用紙を取り出す。商品は全てメモをしてから探すことにしたのだ。
「あの、すみません。不慣れなもんで、もう一度お願いします」
と言って顔を上げて、あらためて客を見る。瞬間、隆男は息をのんだ。
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