Acte 13(虹の影 ~Jardin d'iris~)

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 素直な笑みが友人の表情に浮かんでいる。かるたのことを話しだすと素の純朴さ丸出しだ。正直、和歌や古典に関しての造詣はそれほどでもないのだが、話題を他に振ることもできず、「んー、うん、そうだな」と曖昧気味に追随した。 「『す』とか『せ』とかS音の札は大事でな、これを取られると試合の流れがコロッと変わったりするさけえ、こう、一直線にな、きっちり取るよう気を付けとるんやけど」と、箸を置いて水平に腕をブンブン振る。 「なるほど、俺にはよく分からん話だけど、なんとなく理解した」と、素早く出された腕から反射的に仰け反った。 「夢に関する和歌はたくさんあってな、平安時代の貴族たちも好んでネタに使ってた。有名なのは、ほやなあ……古今和歌集にある小野小町のこの歌、知っとるか? 『思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを』」 「あっ、それなら俺でも知ってるぞ。教科書かなんかで目にした気がする」 「夢っていうのは深層心理を脳がイメージとして見せてくるっていうけどな、脳の働きなんて昔の人は知らんでえ、夢を一つの世界として認識していたんや。どうしても会うことができん、でも会いたいと思う人に会わせてくれる、大切な異次元の通り道。夢は神様とか仏さまとか、そういう人たちから贈られたメッセージやったんやな。やから夢解きっちゅう、夢を分析して解き明かす職業もあったりした。今でいうと予知夢とか、夢占いとか、ほういうもんかな。でも昔の人にとっての夢は、ラッキーアイテムみたいな軽々しいもんではなくて、自分の運命や人生、生き方の指針、未来までも変えてまうほどの影響力を持っていたんよ」  へえ、と、八重園の知識に耳を傾けながら、「じゃあさ、俺の夢に出てきた虹の影にも、何かの意味があったりするのかな」 「意味って、なんのことや」 「例えば……特別な人に会える予言だったりとか」  思い浮かぶのはもちろん遥香だ。こっそりこちらへ遊びに来たりとか? 道端で偶然会えたりとか? なんて、あの夢が良い前兆ならばとフワフワ妄想が膨らみかけたのだが、 「あるわけないやろ。夢解きなんて昔の人が信じていた、ただの迷信や」  素っ気ない一言で、にわか妄想は敢え無く萎む。周囲にいたクラスメイトはほぼ昼食を食べ終えていて、呑気に食べているのは目の前の友人一人だけだ。八重園は最後のカツを箸で掴んで自分の口に放り込んだ。 「夢を見ただけで自分の将来が変わってもうたら、えらいことやさけえ。俺は非科学的なもんはあんま信じん。将来は自分の手で掴むもんや」 「将来のことについて、考えでもあんの」 「うん、やっぱ俺にはかるたしかないさけえ。かるたで社会構造を変えていくような、そういうのを俺にも何かできんかなって、色々と調べとる」 「またかるたか。そこまで極めるなんて、すげえなホント、感心するわ。大学合格おめっとさん」 「へへっ、ありがとな」  八重園は耳を赤らめながらズズッと洟を啜り、手を合わせて今日の弁当に感謝した。こいつは先日、地元の大学へ推薦入試を受けていた。先ほど担任から、その合格を伝えられていたのだ。
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