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「ああ、なるほど、そういう見方もあるよね。店で学ぶ方がより実践的だしね、実技としても早く覚えられるし、オーナーの指導なら申し分ないし。じゃあもう専門学校はやめておくの?」
「うーん、まだ悩んでるんすよ。やっぱり諦めらめきれなくって。俺の行きたいとこって関西なんすよ。一人暮らしもしないといけないし」
「ええっ、そうなの?」
ボウルを混ぜる蔭川の手が止まった。声に驚いたようにエイの白い尻尾が横を向く。黒い海を泳ぐ十匹のエイの群れは統一感がなくてバラバラだ。駄目だなこりゃと反省し、絞りを持つ手に集中しながら次の群れに挑戦した。
専門学校を調べるうちに、興味を引く学校が一つあった。大阪府天王寺にある、大辻製菓専門学校というところだ。一次募集は間に合わなかったが、二次募集の締め切りがもうすぐあり、再度父に頼むつもりでいる。亮がそれほどまでにここへ拘るのには理由がある。その専門学校の提携先となるフランス校、その実地研修(スタージュ)となる先に、ストレール――父が修行を積んだパティスリーがあるのだ。
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