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プロローグ
「ソラ、元気でね」
駅のホーム。
ホームと言っても小さな駅舎がひとつだけ。
周りは田んぼが広がるのどかな田舎の駅だった。
ホームには三両編成の電車が停まっていた。
電光掲示などない、古い車両。
僕は電車のドアで彼女と向き合っていた。
ホームにひとりの女性。
薄いブルーのワンピースが風に揺れている。
白くてか細い手のひらがそっと僕の頬に触れる。
彼女の左腕には白い包帯が巻かれていた。
「…手紙書くから」
僕は涙をこらえて言った。
彼女もまた涙をこらえて頷いた。
発車ベルが鳴りふたりを隔てるようにドアが閉まる。
ゆっくり電車は走り出す。
彼女の姿が次第に小さくなっていく。
僕は彼女の姿が見えなくなるまで窓の外を見ていた。
彼女は電車を負うわけでもなく、静かに立って電車を見送った。
彼女の姿が見えなくなると大粒の涙がこぼれた。
たぶんもう会えない…
僕は幼心にそう気づいていた。
そしてそれは現実だった。
あれから僕の時間は止まっている…
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