死花外伝-鱗粉を拭う-〜谷原真嗣〜

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「えーっとぉ〜」 翌日の、丸橋法律事務所。 見知らぬ20代くらいの、どこか軽薄そうな印象の若い青年を連れた春彦に、真嗣はまだ昨晩の衝撃が拭いきれない動揺した表情を向ける。 「お、大林さん…そちらが昨晩言われてた?」 「はい。僕の恋人で担当編集の…酒井直哉(さかいなおや)君です。」 「やだなぁ先生。いつもみたいに直哉って言って下さいよ〜」 「なっ、なら、僕の事も、春彦って…」 「うん。春彦。大好き!」 「こ、コラっ…」 「あ、あの…」 「あ、すみません。ベンゴシサン?春彦と同じ年代にはみえないなぁ〜。つか、頼りなさげ?まあ、顔は俺好みだけど。」 「こ、コラ直哉!失礼だよ!大体、僕以外の男を褒める、なんって…」 「ああハイハイ。心配しなくても、俺の1番は春彦だよ?」 「直哉…」 「あ、あははははは…」 会話だけ聞いていれば、そこいらのカップルと変わらないイチャイチャぶりに辟易したが、威厳を取り戻さねばとゴホンと咳き込み、真嗣は春彦に問いかける。 「昨晩、大筋のお話はお伺いしましたが、大林さん。あなた、奥様と別れて彼…酒井さんと養子縁組をされると?」 「あ、はい。今の日本は同性婚はできないですよね?だから、多くの同性カップルが行ってる養子縁組と言う関係で、彼と結婚…家族になりたいんです。」 「俺は離婚は良いって言ってんスけどね。春彦奥さんには相変わらずデレてるし、娘ちゃんも可愛いし、養子縁組だけして、一緒に住むとかできねーの?センセイ。」 「そ、それは…奥様…芽衣子さんがお二人の関係を納得されれば、あるいは…」 「よし決まり!じゃあ、今から奥さんに事情話て納得してもらおうよ!春彦!!」 「だ、ダメだよ直哉。芽衣子さんに僕達の関係を知られるなんて…」 「なんで?別に悪い事してねーじゃん。それより、春彦はやっぱり嫌だったの?俺がゲイで、誘ったこと…」 「そ、そんな事ないよ!!僕は君を愛してる!!何も後悔してない!ただ、芽衣子さんに話すのは…」 そうして口籠る春彦に、直哉は優しく言葉を発する。 「俺は、春彦と同じ墓に入りたい。一生添い遂げたい。けど、そのせいで奥さん…芽衣子さんや娘ちゃんを不幸にしたくないんだ。だからさ、話してくれないかな?芽衣子さんに…」 「直哉…」 ねっと、笑う直哉に破顔する春彦。 …同じ墓に入りたい。 彼もまた、自分の性嗜好に戸惑い、苦悩してきたのだろう。 その中で、春彦と言うパートナーを見つけ、今幸せに満ちている。 ただ、彼の家庭を壊してまで…と言うことなのか? どの道、離婚も養子縁組も、芽衣子の理解と許可が必要になる。 そう思った真嗣は、その旨を春彦に告げ、彼は暫し渋ったが、幾ばくかの説得の末、月末の日曜日、芽衣子を交えて4人で話をする運びとなった。
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