11人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「とーじー!!ご飯だよー!!」
「うーん…」
朝。
京都の古めかしい路地の中に佇む長屋街の奥から3番目。
「棗(なつめ)」と表札が下されたその家に来て、初めての春を迎えようとしていた真嗣だが、どうにも同居人でありこの家の主人である藤次の寝起きの悪さには辟易しており、ベッドで丸くなっている彼の身体を揺する。
「真嗣、後生や…後3分。昨日も残業で帰り日付け跨いでてん。せやから…」
「そう言ってダラダラ寝て、もう直ぐ30分だよ!いい加減起きないと、ガチで登庁遅れるよ?!」
「うーん…」
それでも布団から出ようとしないので、真嗣は伝家の宝刀を取り出すことを決意する。
「絢音さんがこの様見たら、なんて顔するだろうねぇ〜」
「!!」
効果覿面。
藤次は直ぐ様起き上がり、スマホの待ち受け…自分に向かって和かに笑う女性の姿を見てニヤニヤする。
「せやったせやったぁ〜。今日、金曜日や。アイツに会うためにも、ちゃっちゃと仕事終わらせんとなぁ〜。…真嗣。」
「はいはい。ご飯と弁当、絢音さんに会いにいく時用のスーツも用意してるよ。」
「ん!おおきにおおきに!!やっぱお前は、ワシの1番の親友や!!」
「はいはい。分かったから、早く!下降りて支度して!本当に遅刻するよ!?」
「へぇーい!」
そう言ってホクホク顔で階下へ降りていく藤次の背中を見つめながら、真嗣はポツリと呟く。
「…全く、ひとの気持ちも知らないで…」
最初のコメントを投稿しよう!