死花外伝-鱗粉を拭う-〜谷原真嗣〜

3/13
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
…真嗣が藤次と出会ったのは、大学生の時だった。 初めて受けた司法試験に失敗し、親からのプレッシャーと慣れない土地での一人暮らしに生きづらさを感じていた頃、偶然出会った藤次にもっと気楽に生きろと通りすがりに言われたのがきっかけで、彼に一目惚れした。 男性に恋心を持つなんてと、最初は戸惑った。 自分と違い、藤次は在学中に司法試験に合格した秀才と名高い人気者。 きっと憧れだと、最初ははぐらかしていた。 しかし、2度目の挑戦で晴れて司法修習生になり、司法研修所で藤次と再会してから運命のようなものを感じるようになり、何も知らない藤次に近づき、同じ大学だからと言う理由で親交を深めていった。 それでもやはり、これは恋なのか憧れなのかと悶々とした日々を送りながらも、夢だった弁護士になり、故郷の横浜の大手弁護士事務所に入所し、そこで上司の川本(かわもと)嘉代子(かよこ)に出会った。 仕事に対して厳しい女性だったが、様々なきめの細かいケアをしてくれて、真嗣にとって彼女は理想の上司だった。 そんな時だった。 秘書たちとの飲み会で、部下の女性秘書新沼(にいぬま)沙耶(さや)に、次々と盃を渡され泥酔した真嗣は、彼女の介抱によって、沙耶のマンションに連れ込まれる。 翌日、目を覚ましてみれば、裸同然でベッドに寝ていて、真嗣は酔った勢いで沙耶を犯してしまったと思い込み、責任を取って彼女と結婚の約束を交わす。 しかし、実は2人の間にはなにもなく、沙耶が真嗣の服を脱がせて事後のように仕立て上げたのだ。 新進気鋭のエリート弁護士をゲットしてラッキーね。 そんな話を秘書達と話していたのを聞いた嘉代子は、公衆の面前で沙耶を平手で殴り、真嗣に顛末を告げる。 その時に、しっかりしなさいと叱られてからと言うものの、真嗣は嘉代子を女性として意識するようになり、10歳以上歳の差はあったが彼女に告白。 すると、思いはあっさり受け入れられとんとん拍子で結婚。翌年には子供…可奈子(かなこ)まで産まれた。 やっぱり自分は、正常な性嗜好で、藤次に対する気持ちは憧れなんだと思うようにして、嘉代子と平凡な幸せを築いていこうと思っていた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!