死花外伝-鱗粉を拭う-〜谷原真嗣〜

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「ああ…なんだってあんな事、言っちゃったんだろ。バカだよ僕〜」 「何が。どないしてん。」 夜。 ちゃぶ台に突っ伏して、ぐちぐちと後悔の念を吐き続ける真嗣に、風呂上がりの藤次は尋ねる。 すると、真嗣は彼をじとりと見つめた後、盛大にため息をつく。 「言えない。守秘義務。」 「なんやねん。ワシとお前の仲やろ?遠慮せんと言えや。聞いたる。」 そう言って、向かい側に座る藤次。 …言えるわけない。 感情的になったとは言え、自分がゲイだと、よりにもよって依頼人に告白したなど、言えるはずもない。 ただ… 「…ねえ、藤次はなんで絢音さんを好きになったの?」 「なっ!?」 真っ赤に顔を染める藤次。その反応に心は軋んだが、構わず進める。 「彼女のどこが好き?顔?性格?それとも体の相性?ねえ、教えてよ!」 「あ、阿呆言え!し、シラフで言えるかいそんな小っ恥ずかしいこと…大体、それがお前の悩みとなんの関係あんねん…」 「それは…」 「それは?」 「………ただ、思っただけさ。人を好きになるって、何なんだろうねっ…て。」 「ほうか…まあ、ワシが絢音の事好きなんは、まあ…見た目もやけど、ワシの事好きって心から思ってくれてる、性根かな?」 「ふぅん。デレデレじゃん。」 「まあのぅ。せや、お前はおらんのか?そう言う女…」 「僕?う、うん、まあ、その、いる、と言うか、なんというか…」 「なんね、やけに歯切れ悪いやん。片思いか?話せ話せ!ワシ応援したる!!」 そう言って食い入るように見つめてくる藤次に、真嗣は寂しく笑う。 「言えないよ。絶対敵わないライバルがいる、恋だからさ。」 「なんね、男ならバシーンと横から奪ったれ!大体、簡単に諦めるなんて、お前らしないで?」 「ははっ!そんな事ないよ。藤次と違って、僕は案外…臆病者なのさ。でもありがとう。少し楽になった。」 「ふぅーん。そんならまあ、ええけど…あまり思い詰めなや?仕事も、プライベートも。」 「うん。ありがとう。先寝るね?お休み。」 「おう!おやすみ。」 そうして二階に上がって戸を閉めた瞬間、真嗣はポツリと呟く。 「…君と同じ墓に入りたいなんて言ったら、なんて顔するだろ…まあきっと、笑って流されるんだろうな。」 そう言って、布団に入ろうとした時だった。スマホの着信音が鳴ったのは。 液晶を見ると、大林春彦。 こんな時間になんだと思いつつ電話を取る。 「もしもし、どうされました?大林さん?」 しかし、いくら待っても、春彦から返答は来ない。 何なんだと眉を顰めた瞬間だった。 「弁護士さん…あの…」 その先の言葉を聞いた瞬間、真嗣は眠気が吹き飛ぶような衝撃を受け、思わず「はい?!」と、素っ頓狂な声を上げた。
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