Lepus

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「信じられない……」  連れてこられた場所は、とても大きな天文台だった。でも、こんな形の天文台は生まれて初めて見た。天体観測をするだけでなく、他にも様々なことが出来そうだ。 「ここはムーンストーン天文台。良いでしょ」 「うん、すごく良い」  早速なかへ入ってみると、奥の壁まで本がずらりと並ぶ図書室や研究室、さらにこの天文台に住む一人一人の部屋もあるようだった。 「私たちはここに住んでるの」 「凄い、私も住みたい」  そう言うとメイトはにっこり笑った。  その後も中に案内され、最後に着いたのは展望台だった。そこには、今までに見たことのないくらい大きな望遠鏡があった。 「何が見たい?」 「うーん……土星かな」 「良いよ、ちょっと待ってね」  そう言って、メイトが準備をしていると、ずっと黙っていたノックがひそひそと話しかけてくれた。 「お姉ちゃんね、いっつも僕には厳しくて怖いんだよ。でもね、今日のお姉ちゃんは違う。使歩さんといるから、優しくなれてるのかも。ありがとう」  そう言って、ノックは私の頬にキスをした。ノックの唇の感覚が、私の細胞を温めていく。 「こちらこそ、素敵な場所に連れてきてくれてありがとう」  私は少し照れ臭くてキスは出来なかったけれど、その温かなものに笑顔が溢れた。 「準備できたよ。見てみて」  私は恐る恐るレンズに眼を近づけた。すると、本でしか見たことのなかった土星が、レンズ越しに映し出されていた。 「凄い、土星って本当に輪っかがあるんだね」 「うん、綺麗でしょ」  私たちは笑い合った。 「そうだ。ベランダに行こう」  天文台の外にあるベランダに出ると、満点の星空が私たちを包み込んだ。すると、二人はスケッチブックを取り出した。 「私たち、毎日星空をスケッチしてるの」  そう言うと、スラスラとペンを動かして、あっという間に息を呑むような絵が出来上がった。 「よし。スケッチ完了。危ない、もう少しで朝になるところだった。使歩、着いてきて」  辿り着いた場所はメイトの部屋だった。メイトが机の引き出しを開けている間に、ノックが私の背中を叩いてきた。 「これ、あげる」  そう言って渡されたのは、ウサギ座の絵だった。 「今日は綺麗に見えたから」  そう言うと、ノックは私との目線を外した。 「おまたせ」  メイトが握りしめていたのは、何かが入った巾着だった。 「この中にはね、知らない星の星屑が入ってるの。私たちが人工衛星を飛ばして取ったの。良かったら受け取って」 「ありがとう、大切にする」  私はウサギの絵とその巾着をポケットの中にしまい込んだ。 「会えてよかった」 「こちらこそ」 「また、いつか一緒に夜を過ごそうね」 「うん、約束」  そう言うと、私は視界がぼやけて意識を失ってしまった。
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