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第一話『その後の出来事』
六月。梅雨の時期に入り、雨が多い中一組のカップルは一つの傘を二人で差しながら歩いていく。
目的地である学校に到着すると男――天下一琉は恋人である森村みる香に大きなタオルで彼女の濡れた髪を拭き始める。
「バッド君、大丈夫だよ。自分で拭くし」
みる香は一琉にそう告げるが、彼は首を振りながら笑顔で拭かせてよと声を返した。
「みる香ちゃんの髪の毛を拭けるから、梅雨はいいよねえ」
「バッド君たら……」
そんな言葉でみる香は顔が赤くなる。
すると一琉は突然顔を近距離まで寄せてくると小声でこんな言葉を発してきた。
「……俺の本当の名前、呼んでほしいな」
「でもここ……学校だし」
「大丈夫、今人はいないし。気になるなら結界張るからさ」
「……いちる君」
彼の本来の名を呼ぶと途端に爽やかで可愛らしい笑顔を見せた一琉はそのままみる香の額にキスを落としてきた。不意打ちである。
「もう! 人きたらどうするの!?」
「あはは大丈夫だって〜俺たちが付き合ってる事、知らない奴いないだろうし」
調子の良い言葉を告げて一琉はみる香の髪を愛おしげに梳いた。
四月の始業式、想いを確かめ合った二人はそれ以降恋人として新たな関係を築き始めている。
早くも付き合って三ヶ月が経とうとしていた。
「じゃあまたお昼ね」
教室のある三階まで足を運ぶと彼に手を振る。一琉のクラスはF組でみる香はC組のため教室が逆方向であった。
そんなみる香を見つめながら一琉はこちらの手をもう一度握り始めた。
「離れたくないな」
そう言って距離を縮めてくる。そんな二人の様子をキャ〜と黄色い声で見る他の生徒達が次々と通りすぎていく。
みる香は顔を真っ赤に染めながら一琉の手を解いた。
「後でたくさん会えるから我慢して。見られるの恥ずかしいんだから……」
赤面しながら俯くみる香を一琉は幸せそうな顔で見つめると「分かった♡」と声を返し、みる香の手の甲に口づけを落とした。
「!? ちょっ…」
「じゃあまた後で会いに行くからね」
そうして満面の笑みを見せると彼は満足げに自身の教室へと歩いていった。言い逃げにやり逃げだ。相変わらずずるい男である。
しかしそんな彼がみる香は大好きで、このような日常は今日に限った話ではなかった。
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