第五十九話『夏祭り』

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 一琉に買って貰った浴衣を着用し、そのまま予定外の美容院まで連れて行かれメイクと共におめかしをされた。そして人生初とも言える化粧と浴衣で着飾られたみる香に大興奮した一琉と共に目的地である夏祭り会場まで足を運んでいた。 「はあ〜みる香ちゃん可愛すぎ」  一琉はそう言ってはみる香を直視し、熱い眼差しを向けてくる。この目線は一度や二度ではなく頻繁に向けられていた。 「バッド君何度も聞いてるよ。でもありがとね」 「俺の方こそ我儘聞いてくれてありがとうだよ。可愛過ぎて離したくないくらい」 「……ありがと」  こんなにベタ褒めされると反応に困る。しかしみる香は素直にそれを嬉しいと思っていた。それほど今の自分の姿は彼を惹きつけているという事だからだ。  だが同時に羞恥心に駆られる事は避けられず、混乱し始めたみる香は「あっりんご飴食べたい!!」と話題を変える。一琉も「一緒に食べようか」と爽やかな笑みをこちらに見せ二人で屋台へ向かっていた。  自然と手を繋ぎ二人で食べ歩きをする祭りは、想像以上に気分を高揚させる。  去年は一琉と桃田と三人で来ていた夏祭りだが、今年は一琉と二人きりである。去年の祭りもとても楽しいものだったが、今年も今年で特別感が大きい。そんな事を体感しながら段々暗闇に染まり始める空を見上げた。その時だった。 『チュッ』 「!!?」  突然一琉が繋いでいたみる香の右手を口元に持ち上げ、手の甲へ口付けを落としてきたのである。みる香は人の多いこの場で行われた事に先に思考が働き、顔が真っ赤に染まる。そして慌てて彼から手を引き戻そうとするが、がっしりと一琉の手でそれを防がれてしまった。 「みる香ちゃんは恥ずかしがり屋さんだね」  そう言ってみる香を柔らかい目つきで見つめる。笑みを溢すその彼の表情に鼓動は速まる。そして一琉は再び言葉を発した。
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