1章 会うは別れの始め

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~♪ ~~♪ ~~~♪ 「ぅうーん…。うるさい……」 布団から顔を出し、枕元で朝からご機嫌に音楽を奏でる目覚まし時計を止めた。 時刻は6時30分。 目を擦りながらベットから降り、カーテンを開け日光を浴びる。 「ふぁ~ぁ……。…いい天気」 あくびを一つして窓の外を見ると雲一つない快晴。 絶好の入学式日和である。 洗面台に移動し、顔を洗って軽く歯を磨きながら、改めて部屋の広さに感心する。 昨日、夕飯を食べて部屋に戻ってきてからは、管理人さんにもらった入学案内や部活動紹介のパンフレットをみたり、スマホゲームをしたりして過ごした。 その後は、シャワーを浴びたら急に眠気が襲ってきたので、そのまま寝ることにしたのだ。 髪を軽く梳かし、制服に袖を通す。 サイズがぴったりの新しい制服は、あの新品の服独特の匂いがした。 テレビをつけてニュースを流しながら、昨日部屋に戻る前に売店で買った朝ご飯を食す。 売店、とは言ったものの、スーパーくらいの大きさは十分にあった。 食材はもちろん、日用品や雑誌も置いてあり、「かなり大きいコンビニ」という言い方が正しいのかもしれない。 常識離れした売店に、その日何度目かの感動を覚えたところで、これからしばらくの間は驚かされる毎日になりそうだ、と小さく覚悟を決めた瞬間だった。 朝食を終え、身支度を済ませたところで時計に目をやると7時15分を示していた。 今日は入学式なので授業はないが、普段の授業日と同じようにまず8時に教室に集合し、そこから講堂へ移動する流れらしい。 学校へ向かうには少し早い気もしたが、なにせ初めての登校である。 何があるかわからないので、余裕をもって部屋を出るに越したことはないだろう。 鏡の前でネクタイを通し、リュックを背負う。 玄関で靴を履き、少しの不安と期待が混ざった「行ってきます」を残して学校へ向かった。   遅刻の杞憂も無駄に終わり、10分くらいで教室に着くことができた。 今日は初めてで少し時間がかかったけど、これからは10分前に寮を出たら間に合いそうだな。 俺の教室は2-2。つまり、2年2組である。 クラスは各学年1組~8組まであり、1クラス約40人の生徒で構成されているらしい。 黒板に貼ってある座席表を見ると、俺の席は窓側側の1番後ろだった。 この学校は、廊下側の前から名簿の早い順に座るようだ。珍しいな。 ゲットした良席に座り、窓の外を眺める。 桜の木が悠々と並び、控えめな風に花びらが待っていた。 「春だなぁ……」 青い空に靡く薄桃色のかけらはとても綺麗で、不安にこわばっていた表情も思わず緩んでしまう程だった。 心地よい風に目をつむり、窓側の席の良さを体感していたところ、 「ねぇねぇ、もしかして編入生?はじめましての顔だけどっ」 と声をかけられ、振り返ると隣の席に淡紅色の目と髪の小柄な子が座っていた。 「うん、昨日編入してきたんだ」 「そうなんだ!ボクは日比谷 巡(ひびや めぐる)っ、よろしくね!名前聞いてもいい?」 出会っていたのがこの学園ではなく、かつ私服だったら男子と分からなかったと思ってしまうようなかわいらしい顔立ちと髪型をしていた。 小さな顔に大きな目、楽しそうに上がった口角は、女の子と間違えても致し方ない。 「うん、山田 暦です。よろしくお願いします、日比谷くん」 「えぇ~!なんで敬語なの、あと名前で呼んでよ、呼び捨てがいいなっ」 「あはは、じゃあ巡。俺も暦でいいよ」 「うんっ、暦くん、よろしくね!」 そう言って巡はニコッと笑いかけ、楽しそうに続けた。 「暦くんは、すごく頭が良かったりする?」 「え、なんで?」 「だって、編入なんてなかなかはいってこないから!それに2-2ってことはかなりの家柄か学力の高さがないとはいれないんだよっ。でも、苗字が山田だから頭いいのかなって!」 確かに山田なんて苗字、どこにでもいるもんな。 「…この学園って、家柄とかでクラス決まんの?」 「学園側から明確に公開はされてないけど、結構そういうところあると思う!基本的には学力が高い方から1組に振り分けられてるっぽい!たまに学力そんなだけどかなりの家柄で上位クラスの子とかもいるかなっ」 「へー、そんな感じなんだ。変わってんね」 家柄と学力がクラス分けにされるのか。 学生にしてはシビアというかなんというか…。 「たしかに、でもずっと通ってると慣れちゃってそれが普通になっちゃってるかも!」 「巡はずっとこの学園に?」 「うん、そうだよ!」 「そっか、じゃあ大先輩だ、お世話になります」 「ふふっ、いろいろ教えてあげるね!」 「うん、ありがとう」 「…暦くん、ボクが友達第一号…??」 「へ?そうだね、話しかけてくれたの巡が一番だね」 「やったぁ、一番だっ!えへへ…」 巡は嬉しそうに少し照れたように笑った。両手を頬に持っていき、うつむきがちに笑う仕草はさながら女の子である。 かわいいな~と思いながら巡を見ていると、俺も自然と口元に笑みを浮かべていた。 ふと、教室の入口の方に視線を移すと、ドアの窓ガラスごしにこちらを見ている人影を見つけた。 青色の髪色をした彼は、挙動不審にチラチラとこちらを見ているようで、バチッと目が合った。 かと思えば、まるで暦たちの存在に今気づきましたと言わんばかりに、一瞬驚いたような芝居臭い表情を見せながらこちらに近づいてきた。 「巡、あの人って…」 「ん?……げ、あいつっ、ん''ん''ん…誰だろうね!」 「知り合いじゃないんだ?凄いこっち見てたから巡の友達かと思った」 「いや!知らな──」 「やぁ、巡氏。奇遇だな!今年もまた同じクラスとは。ところでその隣の彼は?」 「……」 近くで見た彼の髪色は紺碧で、襟足の部分は緩く後ろで結っているようだ。耳には十字架のピアス(?)が、首には同じデザインの十字架があしらわれたチョーカーが嵌めてあり、なんとも個性的なセンスが見て取れる。 巡の髪色を見た時にも思ったが、ここはかなり校則の緩い学校なんだな。 巡は、暦の前に仁王立ちする男を見上げた後、小さくため息ついてしぶしぶ答えた。 「…はぁ。…暦くんっ、彼は堀紋次郎(ほりもんじろう)くんだよ!ボクとは中一の時からずっと同じクラスなの!」 「山田暦です、よろしく」 「ほぅ、なかなかよい名をお持ちだ。オレのことは(あや)と呼んでくれ」 「あや…?」 「紋はね、中二病こじらせてるから紋次郎って名前の響きが好きじゃないんだって!」 「へー、かっこいい名前なのにね」 「…!巡氏、暦氏はいいやつだな!あとオレは中二病ではない!」 「あっ、ついでに紋はオタクも混ざってるから、さらに厄介だよ!」 「オタクでもない!」 先ほどまでの可愛らしい様子はそのまま、どこか凄みを増した笑みを浮かべ、紋次郎と会話をする巡。 俺はというと、「二人は仲がいいんだなー」となんとも呑気に二人のやり取りを眺めていた。 その後も、『オタク・オタクではない論争』を繰り広げる巡と紋を見守っていたが、入学式会場である講堂への移動を促す放送により、口論は中断となった。 …少しクセの強い友達ができました。
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