1章 会うは別れの始め

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講堂へ移動し、入学式が始まった。 講堂は、校舎の横に併設されており、こちらも校舎や寮同様、学園施設の一部だと思えないほど大きかった。 講堂内は1階席、2階席、3階席に分かれており、3学年の生徒と教員が全員入っても開放感があり、ライブができそうな洗練されたデザインと広さを持ち合わせていた。 なぜか周りには、一眼レフカメラや双眼鏡を首から下げた生徒もいて、某アイドルグループのライブ会場感を加速させていた。 入学式はというと1年生がメインなので、1階に1年生、2、3階に2、3年生が座ることになっていた。 ステージ上では新入生代表が宣誓したり、校長が式辞を述べたりと式は滞りなく進んでいた。 山田の姓を持つ俺はというと、講堂でも一番後ろの席のため舞台上の様子はぼんやりとしか見えなかった。 そんなこんなでぼーっと式の様子を眺めていたら、入学式が終わった。 式の終了を皮切りに、あたりがざわざわと騒がしくなり始めた。 先ほどまでスマホをいじっていた生徒も姿勢を正し、鼻息荒く、壇上を見つめている。 何が始まるのかと不思議に思っていると、「続きまして、生徒会役員及び専門委員会委員長任命式を行います」と生徒によるアナウンスが流れた。 一際大きくなった喧噪の要因が気になり、隣に座るそばかすまじりの生徒に尋ねてみた。 「ねぇ、なんでこんなにざわざわしてるの?」 「え!?…あ、えと、せ、生徒会と委員長が人気だからかな…。いつもこんな感じなんだ」 話しかけると、びっくりしたように体を震わせ、こちらを見つめ、申し訳なさそうに答えた。 急に話しかけてびっくりさせちゃったかな。 「ごめんね、急に話しかけて」 「いやいや、全然!…ちょっとびっくりしちゃって…」 悪いのは急に声をかけたこっちなのに、首をぶんぶん降って否定する様子は怯える小動物のようで、心の中でひっそりと和んでしまった。 「そっか。…今から出てくる人達は『学園のアイドル!』みたいなかんじなの?」 「あながち間違ってないかも…」 「え、まじ?」 冗談のつもりで言った「学園のアイドル」が肯定されてしまった。 「うちの学校は、生徒会も委員長も、ある程度人気がある人から選ばれるんだよね。『嶺学人気ランキング』っていうのがあって、大抵その上位者が役職持ちになるんだ」 「へぇ、それって組織として機能すんの?」 「うん、意外とね。役職持ちの人は頭がいい人多いし、あとは人気だからこの人たちについていきたい!って思う生徒も多いんだよね」 「はぁー、なるほど。世の中はうまい具合に回ってるんだなぁ」 「ふふ。なんか、おじいちゃんみたいなこと言うね」 「え、そうかな?そんなことはじめて言われたんじゃけど」 「それはもう狙ってるよね?」 最初は控えめな性格の子かな、と思ったけどボケたら意外と突っ込んでくれた。 「そっか、じゃあ、みんな学園のアイドルを見ようと前のめりなわけだ」 「うん、そうだね」 「推してる先輩いるの?…えーっと…」 ここまで話してきて、そういえば名前を聞いてなかったことに気が付いた。 「谷だよ。谷頼仁(たによりひと)」 「谷君。山田暦です。よろしく」 「山田君、よろしくね。…僕は別に役職持ちに対して推すとか考えたことはないかな。どちらかというと女の子のアイドルの方が好きだし」 「そうなんだ。俺はそもそもアイドルを応援したことないかも」 「そっか。この学園だと、役職持ちに興味ない人の方が少数派なんだよね。僕は役職持ちとその親衛隊がちょっと怖くて…」 「親衛隊?護衛する人がいるの?なんて物騒な…」 「本来の意味とはちょっと違うんだけど、役職持ちの人のことを好きだったり、尊敬してたりする人が集まって、ファンクラブみたいになってる感じかな」 「はぇー、まじでアイドルみたいだね」 「うん、結構いろんな感情持っている人が集まるから、僕は関わらない方が安全かなって思っちゃう」 「そうなんだ」 谷君も俺と同じ平和主義っぽいな。仲良くなれそう。 「あっ、別に嫌いなわけじゃないんだけどね…、みんな顔がいいから見てれば目の保養になるとか言われてるし…」 「そっか、じゃあ俺も遠くから見てるだけにしよ、平和が一番だもんね」 谷君との会話で生徒会役員と委員会役員にはなるべく近づかないようにしようと決めた。 俺は、この学園に多くのことを求めていないのだ。 ただ健康に卒業できればそれで良いのである。欲を言えば、を安心させられるくらいには「楽しかった」といえる生活になれば、と思う。 「「きゃーーーーーーーーーー‼‼‼‼」」 「うわっ、びっくりした」 突然、先ほどまでとは比べ物にならないほどの地割れのような歓声が上がった。 「山田君、始まったよ。ここからずっとこの調子だから、もし、しんどかったら耳ふさいでた方がいいかも」 隣人の声でさえ聞き取りにくいほどの歓声の中、谷君が舞台上を指さしながら任命式が始まることを教えてくれた。 まるでライブ会場のような盛り上がりの中、耳をふさぐことも念頭に置きつつ、壇上に上がってくる人々に注目した。
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