1章 会うは別れの始め

5/9
前へ
/95ページ
次へ
「それでは、準備が整いましたので、任命式を始めたいと思います」 「「「きゃーーーーーーー!!!!!!」」」 谷君の助言に従って、ポケットに入っていたイヤホンを装着することでいくらか楽にはなったが、それにしてもすごい歓声だ。 谷君はというと、慣れているらしく耳をふさいでいなかったが、それでも眉間にしわを寄せていた。 「まず始めに、第60期前期生徒会役員の皆様、ご登壇ください。一人ずつ自己紹介をお願いします」 アナウンスと同時に6人の生徒が壇上に上がっていく。 「まずは、生徒会長お願いします」 「第60期前期生徒会長を務める3-1の睦月 迅(むつき じん)だ。よろしく」 「きゃー!会長様ーー!抱いてーーー!」 イヤホンをしていても、マイクを通した声と、生徒たちの歓声はよく聞こえた。 「続いて、副会長お願いします」 「生徒会副会長の3-1の如月 伊雪(きさらぎ いぶき)です、よろしゅうな」 「きゃー!副会長ーー!踏んでーーー!」 あ、ハンバーグの人だ。 「続いて、会計お願いします」 「生徒会会計の3-1の弥生 継(やよい けい)だよ~。よろしくね~」 「会計様ー!今夜どうですかーー!!」 なんか、全体的に生徒会って派手だな。これはアイドル扱いされるのも頷ける。あと、親衛隊の皆さんの反応が物騒じゃない?そういうもんなのかな。 「続いて、庶務お願いします」 「「こんにちはー!!生徒会庶務やるよ!2-1の」」 「卯月 梅(うづき うめ)だよ!」 「卯月 桜(うづき さくら)だよ!」 「うおー!!双子庶務様ー!今日もかわいいー!!」 徐々に歓声にも慣れてきたので、片方だけイヤホンを外してみた。 「2年生もいるんだね」 「うん、去年も書記と庶務は2年生だったよ」 「そうなんだ」 「続いて、書記お願いします」 「はい。生徒会書記を務めます、2-1の皐月 悠李(さつき ゆうり)と申します。半年間、よろしくお願いします」 「書記様ー!今日も美しいー!!」 「では、今期の行事予定と取り組みについて、生徒会長よりお願いします」 睦月会長以外の役員は袖にはけ、会長はマイク前に立ち、演説を始めた。 「──」 「──、──」 「──。──、──」 …やばい、めっちゃ眠い。 先ほどと比べて歓声が落ち着いたのに加えて、春らしい暖かな気候が相まって完全に睡眠モードに入ってしまった。 流石に初日から居眠りするのはどうかと思ったが、人間の三大欲求には逆らえず、肌触りの良い椅子に体を預け、眠りに落ちていった。 「…。…君、山田君。山田君…!」 身体を揺さぶられる感覚と、名前を呼ぶ声に目を覚ました。 覚醒しきらない意識の中で隣に目をやると、心配そうな顔で此方を覗き見る焦茶の瞳と焦点が合う。 「…山田君、そろそろ任命式終わるから、起きた方が…」 「ふぁ…。ごめん、寝ちゃってた。…起こしてくれてありがとう」 あくびを一つして谷君に礼を言うと、「全然大丈夫だよ」と返してくれた。 「風紀委員長の挨拶の途中で山田君が寝てるのに気づいたんだけど、結構前から寝てた…?」 「どうだろう…。生徒会長が話し始めたくらいから記憶ないや」 「わぁ、だいぶ序盤だね…」 「なんか、聞いてた方が良かった事言ってた?」 「うーん、僕としては、行事とかは去年とそこまで変わってなさそうな感じしたけど、山田君は編入生だからどうだろう…」 「んー、まぁ何とかなるしょ。授業で寝るよかマシってことで」 「それはそうだね」 「以上を持ちまして、生徒会役員及び専門委員会委員長任命式を終了いたします。この後はクラスに戻り、各クラスごとにHRを行ってください」 講堂から校舎へ戻る道中、前を歩く生徒達が任命式の話で盛り上がっていた。 「今日も皆様かっこよかったよねー!」 「ね!かっこよすぎた…!やっぱり我らが神無月(かみなづき)風紀委員長は素敵だった…。あの冷徹な視線に低音ボイス…、思い出すだけで動悸がっ!!」 「うちの長月(ながつき)図書委員長も雅だったよね、まじリアコ…」 「いやいや、水無月(みなづき)美化委員長っしょ。あんなんほぼ女だって。性癖ゆがむわ~」 「お前分かってないなぁ、葉月(はづき)保険委員長だろうが!あの泣かせたくなる顔な!」 「キモっ。やっぱ文月(ふみづき)体育委員長だよ!あの腕に抱かれたい…」 「あんたも大概よ。…でも、今日も風紀副委員長居なかったね、お顔見たかった~」 「あー、霜月(しもつき)様ね…。神出鬼没なところも素敵よね…!」 各々の好きな委員長の話題で盛り上がっているようだった。 「…ねえ、谷君」 今日一深刻な顔で谷君に話かけた。 「…どうしたの山田君」 「ちょっと聞きづらいんだけど…。…この学園って…」 「……」 「…委員会いくつあるの?」 ズコー!! 谷君はきれいに躓き、転びかけていた。  いやー、谷君はいじり甲斐があって何より。 「えぇ~…。溜めに溜めてその質問…?」 「あはは、気になって」 「…そうだよね、山田君寝てたもんね」 「まあまあ、そんなほめんなって」 「ほめてないよ、もう…。…委員会は全部で5つかな。風紀委員、美化委員、体育委員、保健委員、図書委員。さっきの任命式で挨拶してたのは、各専門委員の委員長と副委員長だね」 話しているうちに教室に着いたが、まだHRは始まりそうにないので、谷君の席付近で駄弁ることにした。 「みんなどこかの委員会に入らないといけない感じ?」 「いや、入りたいって人はたくさんいるけど、枠は少ないから結構狭き門だよ」 「そうなんだ」 「うん、…山田君、委員会興味あるの?」 「いや、強制じゃないならやらないかな。谷君、部活なんか入ってる?」 「うん、僕は囲碁部だよ」 「へー。囲碁部があるんだ」 「うん、嶺学は部活動が結構盛んで、運動部も文化部もたくさんあるよ。気になる部活ある?」 「うーん、今のところは考えてないかな」 「そっか、囲碁興味あったら遊びに来てね」 「うん、気が向いたら」
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1093人が本棚に入れています
本棚に追加